病院家庭医

病院家庭医

新たなSpeciality

書評

藤沼 康樹 先生(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)

 家庭医療学(Family Medicine)は,主として欧米の文脈において質の高い一般開業医の診療のプロセスと構造を明らかにすることから始まりました.それにより,質の保証された若いGeneral Practitioner(後に家庭医とよばれるようになる)を養成することができるようになり,プライマリ・ケアの質が向上し,我流ではない生涯教育が可能になると考えられていたのです.
 私自身は,家庭医療学の起源にあたる研究で明らかになったさまざまな所見の中で,最も重要なものは,「質の高い家庭医は患者の疾患の診断治療と,患者の『病い体験』をほぼ同等に扱っている」ということだったと考えています.それは,疾患の背景因子として心理社会的な側面に気を配るというレベルではなく,生物心理社会的な各側面に同等の価値を付与していたということを意味します.
 さて,日本における受療行動の調査で明らかになったことは,心身の健康問題が生じたときにまず相談する場所として選ばれる医療機関としては,診療所が多いのですが,病院の外来もそれなりに多いということです.つまり日本の病院の外来には家庭医療の機能が本来は必要とされているのです.さらに重要な側面として,超高齢社会にある日本の地域包括ケアにおける垂直統合が有効になるためには,家庭医療学を基盤とした総合診療病棟が地域に必要であるということです.なぜなら,垂直統合を担える病院病棟の機能としては,以下の他科にない独自の機能が必要だからです.
●複雑性が高く比較的重症な多疾患併存患者(Complex Multimorbidity)の入院機能
●入退院を繰り返す,慢性心不全,慢性腎臓病,慢性呼吸不全等下降期慢性疾患の短期入院機能
●進行したFrailな患者(Multiple Functional Decline)の身体疾患急性増悪期のコントロールとマネジメント機能
●心理社会経済的問題によるCrisisサイクル(Complex/Chaos Cases)を一時的にリセットするための入院機能
 若い家庭医と総合診療医たちにより作られたこの「病院家庭医」という本には今こそ求められている病院の医療を行うための具体的に必要な知識・技術・態度・価値観が力強く素描されています.地域包括ケアの時代における病院医療に関心のある全ての医療者に一読を薦めます.