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カテゴリー: 臨床薬学

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ZERO→ONE

スタートアップTDM

はじめての人も つまずいた人も 理論より実践! バンコマイシンからはじめよう!

1版

香川県病院薬剤師会 香川県TDM委員会 編

定価

2,750(本体 2,500円 +税10%)


  • B5判  136頁
  • 2019年2月 発行
  • ISBN 978-4-525-77481-3

TDM業務に活用できる はなまるガイド!!

TDMは薬剤師職能が発揮される大切な業務の1つだが,苦手意識をもつ方は少なくない.本書は,そんな薬剤師の道標となる入門書.著者は手探りでTDMに取り組んできた薬剤師.自らの経験や現場の声を基に,イラストや図を多用し丁寧に解説!さらに,即実践で活用できるよう,広くTDMが行われているバンコマイシンを例に解説した.

  • 序文
  • はじめに
  • 目次
  • 書評
序文
 私が薬剤師になった頃,TDMは有用ではあるもののまだ研究段階にありました.しかしながら,1980年に炭酸リチウムのTDMが保険診療として認可されたことを転機とし,約40年が経過した現在,TDMは医療現場において欠かすことのできない医療技術へと発展を遂げています.一方,依然としてTDMの実施が特定の施設に限られているという現実も否定できません.その理由として,マンパワー不足や採算性が取れないことなどが挙げられますが,何より大きな問題は,いまだ多くの臨床現場において「TDMは難しい」というイメージが定着している点でしょう.TDMの理解と実践のためには,必ずしも難しい理論や数式を覚える必要はありませんが,最低限の基礎知識が必要です.そこで香川県病院薬剤師会では,1999年より香川県TDM研究会を設置し,現在までTDMの教育・啓発に努めてきました.その活動は香川県内にとどまることなく,ついにこの度南山堂より「ZERO→ONE スタートアップTDM」として上梓され,初学者向けTDM入門書として世に出る運びとなりました.

 TDMに関する書籍は世の中に数多く出ていますが,本書ほど初学者目線で分かりやすく記載されたものはなかったように思います.本書の最大の特徴は,随所にイラストが掲載されていることにより,親しみやすく抵抗感なく読むことができる点です.したがって,これからTDMを学ぼうとする初学者はもちろんのこと,これまでTDMを敬遠してきた薬剤師も,容易に投与設計の基本と薬学管理を学ぶことができるはずです.さらに,臨床現場での疑問を詳細に解説した「Q&A」,より理解を深めたい人向けの「ステップアップレクチャー」の章も設けられており,初学者のみならず中級者や上級者にとっても読み応えのある充実の一冊となっています.

 香川県はご存知の通り,日本で最も小さな県です.その日本で最も小さな県から生まれた本書が,日本中の臨床現場で活用されることを期待しています.


 
2019年1月
 
香川大学医学部附属病院 教授・薬剤部長・病院長特別補佐
香川県病院薬剤師会 会長
徳島文理大学香川薬学部 臨床教授
香川県薬剤師会 副会長

芳地 一

はじめに
 私ども香川県病院薬剤師会では,TDMの進捗と普及を図ることを目的として1999年に香川県TDM研究会(現 香川県TDM委員会)を設置し,活動を継続してまいりました.研究会は,前担当理事の発案により当初から計算や理論を軸とせず,TDM支援ソフト(YUHR-TDM:山口大学医学部附属病院薬剤部が改良を加え開発したTDM支援ソフト)の操作方法を主な教材とした勉強会を実施しておりました.その方式は,TDM業務を「難しく,よくわからない」から「とにかく手順に従って,TDM支援ソフトを操作することからはじめよう」に参加者の意識を変えました.その後,研究会に参加する薬剤師も増え,TDMに精通した若手薬剤師が育ち,県内におけるTDM業務が普及したという観点から,一定の成果を得ることができたと考えています.

 しかし一方で,TDMは数学的知識や専門知識が必要であり,「難しくよくわからない」として拒否反応を示すことが多いことも事実です.さらに,従来のように迅速に血中薬物濃度を測定する手段が失われてきていることや,薬剤師業務の多様化もあり,TDMは取り組みにくい業務・優先度の低い業務と考える施設も少なくありません.薬剤師によるTDMは,医療に貢献する極めて大きなポテンシャルを持っているにも関わらず,現状ではその貢献度は未だに満足すべき状況に達していないと考えます.この状況を打破するためには,これまで私どもが研究会で行ってきた活動をより大きな規模で行う必要があると考え,本書の作成に至りました.

 本書は,TDMとはいかなるものかと興味をもっている薬学生,これからTDMを学ぼうとしている薬剤師,とにかく業務に必要なバンコマイシンのTDMを行う必要に迫られた薬剤師などを対象と考えて作成しました.特に,私どもが実際にTDM業務に携わる中で出てきた疑問について詳しく説明するように心がけました.第1章では,TDM支援ソフトを軸としたTDM全体のイメージをつかんでいただければと思います.第2章ではバンコマイシンのTDMを行う上での基礎知識,第3章ではTDMを実践するなかで現れる疑問点についてQ&A形式で学び,第4章では「なぜそうなるのか?」を深掘りして理解を深めていただきたいと考えました.

 本書を通じて,「自分にもTDMができそうだ」「やってみようか」と思っていただければ,これにまさることはございません.皆さんのお力でTDMを今以上に医療に貢献する新時代のNEW-TDMに前進させていただけることを切に希望しております.
 香川県TDM研究会が発足し約20年が経過して,本書が出版できましたことを喜ばしく思います.また,出版に携わって頂きました関係者の皆様,特に書籍作成の素人の無理難題に快くご対応いただきました南山堂編集部の皆様にこの場をお借りいたしまして深く感謝いたします.


2019年1月

独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO) りつりん病院 薬剤部長
香川県病院薬剤師会 副会長
香川県薬剤師会 代議員
香川県医師会看護専門学校 非常勤講師

阿部武由
目次
本書の使い方

第1章 シーンで学ぶTDM支援ソフトの使い方
 バンコマイシンのTDMの流れ
  シーン1:薬物投与開始前のTDM
  シーン2:薬物投与開始後のTDM
  シーン3:投与量を変更する場合のTDM

第2章 バンコマイシンで学ぶTDMの考え方
 ストーリー1 TDMをはじめる前に
  ①TDMとは?
   なぜTDM を行うの?
   TDM 業務の流れは?
   TDM の考え方の基本は?
   TDM の対象となる薬は?

  ②MRSAとバンコマイシン
   MRSA って何? 耐性って何?
   MRSA 感染症はどうやって起こる? どんな問題がある?
   MRSA 感染症に有効な薬は?
   細菌検査室での細菌検査の流れは?

  ③バンコマイシンのTDMを行う前に知っておきたいこと
   MIC って何?
   細菌検査結果を見たら,どこに注目すればいい?
   抗菌薬使用に重要なPK/PD パラメータは?
   バンコマイシンで使用するPK/PD パラメータは?

  ④バンコマイシン投与量と血中濃度の関係
   同じ投与量だと同じ効果が期待できるの?
   血中濃度と治療効果や副作用の関係は?

 ストーリー2 血中濃度測定
  ①バンコマイシンの定常状態
   「定常状態」って何?
   半減期と定常状態の関係は?
   バンコマイシンの定常状態はいつ?

  ②血中濃度測定の基本
   「トラフ値」と「Cmax」って何?
   どうしてトラフで採血するの?
   バンコマイシンを投与している時は,何日目のトラフで採血するのがいいの?
  
  ③腎機能低下患者での注意点
   腎機能低下時の定常状態到達時間はどうなるの?
   腎機能低下患者への投与はどうすれば良い?
   ローディングドーズを行うと定常状態に早く到達するの?

 ストーリー3 目標トラフ値と副作用
  ①バンコマイシンの目標トラフ値(成人)
   バンコマイシンの目標トラフ値(成人)の範囲は?
   なぜ,トラフ値でバンコマイシンが効いているかが分かるの?
   バンコマイシンのトラフ値が目標トラフ値より高くなったらどうなるの?
   トラフ値が目標トラフ値より低かったらどうなる?

  ②トラフ値が目標範囲内にあっても注意が必要な場合
   目標トラフ値に入っていれば大丈夫?
   腎機能低下患者以外に,AUC24/MIC≧400 が達成されないケースはある?
  
  ③バンコマイシンの副作用
   バンコマイシン投与時に注意すべき副作用は?
   バンコマイシン点滴中に注意すべき副作用は?

 ストーリー4 用量調節
  ①バンコマイシンの用量調節と比例計算
   バンコマイシンの投与量はどのように調節する?
   投与量と投与間隔を変えたら,比例関係はどうなる?
   バンコマイシンの投与間隔について教えてください.
  
  ②バンコマイシンの 投与量の上限
   バンコマイシンの投与量の上限は?
   高用量,上限量を投与しても目標トラフ値を達成できない時はどうする?

 ストーリー5 TDM支援ソフトを使う時に必要な基礎知識
  ①コンパートメントモデルとは
   「コンパートメントモデル」って何?
   コンパートメントモデルにはどんな種類がある?

  ②母集団薬物動態パラメータとは
   「母集団」,「母集団パラメータ」って何?
   母集団パラメータを利用して患者の薬物動態パラメータを推定するときの注意点は?

 ストーリー6 TDM支援ソフトを使いこなす
  ①TDM支援ソフトを使った「初期投与設計」と「解析」
   TDM 支援ソフトによる「初期投与設計」とは?
   TDM 支援ソフトによる「解析」とは?
   「初期投与設計」や「解析」では,どのようにして血中濃度推移グラフをつくるの?
  
  ②腎機能の評価方法
   「クレアチニンクリアランス」って何?
   クレアチニンクリアランスの実測値はどうやって求めるの?

  ③クレアチニンクリアランスの簡便な推定方法
   クレアチニンクリアランスの簡便な推定方法は?
   Cockcroft - Gault 式を使う時の注意点は? 対応策は?

第3章 Q&A
  Q01 TDMのための採血を担当する看護師に伝えることは?
  Q02 「抗菌薬が効く」とどうなる?
  Q03 バンコマイシンのノモグラム(Nomogram)って何?
  Q04 バンコマイシンは殺菌的な薬? 静菌的な薬?
  Q05 「最小2乗法」と「ベイジアン法」はどう使い分けるの?
  Q06 バンコマイシンを注射用水に溶かす理由は?
  Q07 薬物の血中濃度はどのように測定しているの?
  Q08 高齢者や寝たきりの患者,肥満患者にはCockcroft-Gault 式は使えない?
  Q09 Cockcroft-Gault式以外に腎機能を推定する式はある?
  Q10 CLcrとeGFRの違いは?
  Q11 線形の薬物と非線形の薬物の違いは?
  Q12 血液透析患者へのバンコマイシン投与時のTDMはどのように行う?
  Q13 小児へのバンコマイシン投与時のTDM はどのように行う?
  Q14 骨関節からMRSAが検出された場合のバンコマイシン投与時のTDMはどのように行う?
  Q15 アルベカシン,テイコプラニンのTDMのポイントは?
  Q16 TDM 支援ソフトによる初期投与設計の結果と実測値が大きく異なる場合,どのように考えれば良い?
  Q17 TDM 支援ソフトで予測した血中薬物濃度の推移と実際の血中薬物濃度推移の違いは?
  Q18 バンコマイシンのAUC24 はどうやって算出する?
  Q19 Cmax とCpeak はどう違うの?
  Q20 バンコマイシンによる治療期間はどれくらい?
  Q21 バンコマイシンのトラフ値が目標に届かない場合,必ず増量を検討すべき?

第4章 ステップアップレクチャー
 1.定常状態と1次消失速度過程について,もう少しレクチャー
 2.比例計算が成立する理由について,もう少しレクチャー
 3.コンパートメントモデルと薬物動態パラメータについて,もう少しレクチャー
 4.ベイジアン法について,もう少しレクチャー

コラム
・TDM支援ソフトの「これまで」と「これから」
・薬剤耐性(Antimicrobial Resistance=AMR)対策について
・TDMによるファーマシューティカルケア
・TDMでの血中薬物濃度とタンパク結合率の高い薬剤
・「初期投与設計」と「解析」結果の比較
・国内のTDM支援ソフトと海外のTDM支援ソフト
・血中濃度の理論式に用いられる主な薬物動態パラメータについて

引用文献

付録
 1.TDM支援ソフトで使用されている主なバンコマイシン母集団パラメータ
 2.コンパートメントモデルにおける血中薬物濃度の理論式

索引
書評
初心者は考えこむよりも先ずは実践!

増田智先(九州大学病院 教授・薬剤部長)

 TDMは一人一人の患者さんにあわせた適切な薬物投与を行うための、指標として重要である。それは十分理解しているが、薬物動態学、薬力学から数学まで難しい知識が必要そうで、自分でやってみるには大きな壁を感じる・・・。本書の主な対象はこのようなTDM初学者であり、サブタイトル「はじめての人も つまずいた人も 理論より実践!」の通り、つべこべ言わずにまずはやってみること大事、とにかく経験も大切ということが述べられている。
 全4章から構成されている。とにかく実践を!という著者らの意向なのだろう、TDM支援ソフトの使い方から始まっていることが目を引く。TDMの概念や詳しい解説は第2章以降へ後回しになっている点は、他の関連書籍とは異なっていて、「理論より実践!」を反映した構成を感じる。TDM支援ソフトの使い方はパソコン画面の表示について図解され、その通りに入力、クリックしていけば良いだけなので非常にわかりやすい。多くの読者は、まずはTDM支援ソフトを本書の解説通りに使ってみることで、思っていたよりも簡単だという印象を持つだろう。第2章以降ではTDMを行っているうちに出てくる疑問や知っておくべき概念がイラスト付きで解説されている。まさにTDMに精通した先輩が傍にいて、次はこんな疑問が湧くでしょうと先を読んで答えを準備してくれている感覚になる。また、TDMの対象薬は多数あるが、本書ではバンコマイシンのTDMに限定して解説されている点で解りやすい。欲張って色んな薬剤を考える必要はない。まずはどこの病棟を担当していても遭遇する可能性の高いバンコマイシンだけでもTDMをやってみよう、とここでもTDMへのハードルを下げてくれている。これからTDMを始めようとする人に「自分にもできそうだ」と思わせてくれる一冊である。
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