書籍カテゴリー:基礎薬学

くすりの小箱
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くすりの小箱
薬と医療の文化史

1版

  • 静岡大学人文学部教授 湯之上 隆 編
  • 静岡大学人文学部教授 久木田 直江 編

定価:1,980円(本体1,800円+税10%)

  • A5判 160頁
  • 2011年4月 発行
  • ISBN978-4-525-70191-8

概要

「文」「理」の垣根を越えて,各分野のスペシャリストが集結!
薬史学,生命倫理学,精神医学,ヨーロッパ医学,日本史学が織りなす「薬と医療の文化史」解説書.
多角的に薬と医療を考えるのに役立つオススメの一冊.

序文

 人の世の大事について,兼好法師は食物・着物・居所に,病の愁いを抑える医療・薬を加えた4つを挙げ,この外にものを求めるのは贅沢と言っている.
 人類の歴史のなかで病気とともに発見され,今も生成され続けている薬について,たとえば「何らかの効果を期待して意図的に体にとりこむ化学物質」(レスリー・アイヴァーセン,廣中直行訳『薬』岩波書店,2003年)という定義が行われているが,病の不安を抱えていたのか兼好の述懐は薬の意義を高く評価したものである.
 一方,進歩しつづける医療技術と,あり余る薬に取り巻かれて生きるわれわれが,病に冒されて生から死へのうつり行きを,深くやわらかく見つめようとする時,幕末福井の国学者,橘曙覧が残した言葉は深い示唆を与える.曙覧は清貧の暮らしのなかで,自然と家族と自分に楽しみを見つけ出して歌を詠み続けたが,晩年の慶応4年(1868年)5月,「病にわずらひける時」という題をもつ歌がある.

死ぬるやまひ 薬飲まじと 思へるを
うるさく人の くすり飲めといふ
死ぬべかる 病を癒す 医師の
今も世にありや 吾は見およばず

 近づきつつある死を自覚して穏やかに受容した曙覧は,病癒を目指して力を尽くす医師にも気遣いつつ,手の施しようのない終末期の逝こうとする人間に対する医療や薬の意味について,切々淡々と問いかけている.病床に臥すこと3か月,曙覧は明治と年号がかわる10日ほど前に,57歳の人生を終えた.
 本書は,平成18年度から3年間にわたる科学研究費基盤研究(B)「薬の倫理学と薬剤師の倫理教育プログラムおよび薬の歴史文化論的研究」(研究代表者:松田純・静岡大学教授)に集った多領域の10名(薬学史・生命倫理・精神医学・ヨーロッパ文学・日本史学など)による,薬と医療の文化史を読み解こうとする共同研究が実ったものである.
 既刊の成果である,松田純他編『薬剤師のモラルディレンマ』(南山堂,2010年)の姉妹編というべき位置にある本書は,世界と日本の薬の歴史に始まり,近代医療史,治療以外の願望実現医療,薬物依存,薬物治療における倫理と科学,中世・近代ヨーロッパの医療と薬,統合医療などに触れ,アジア諸国で大きな役割を果たした薬師信仰の歴史をもって終わる.多彩な内容をもつ本書が,医療と薬を考えるにあたって,導きの糸になれば幸いである.

2010年12月
湯之上 隆

目次

第1章 くすりの歴史―世界の薬学
1  有史以前の医学・薬学
2  古代バビロニアの薬学
3  古代中国の薬学 ― 神農
4  古代中国の漢方 ― 黄帝
5  エベルス・パピルスの頃 ― エジプト B.C. 1500年
6  昔の商標つき錠剤 ― 刻印粘土錠 B.C. 5世紀
7  ギリシャの生薬学の祖 ― テオフラストス B.C. 300年頃
8  古代ヨーロッパの解毒薬,万能薬 B.C. 1世紀~1世紀
9  薬物学者   ペダニウス・ディオスコリデス 1世紀
10  医学,薬学の実験家   ガレノス 131~201年
11  医学と薬学の守護神   ダミアンとコスマス 3世紀頃
12  修道院の薬局とバクダッドの世界最初の薬局 5~12世紀/754年頃
13  ペルシャのガレノス   アヴィケンナ 980~1037年
14  医薬分業   フリードリッヒ2世 1240年
15  世界最初の薬局方 ─ イタリア・フィレンツェ 1498年
16  薬剤師協会 ─ ロンドン 1617年
17  薬剤師としてのキリスト絵 ─ 中・近世ヨーロッパ
18  スウェーデンの薬剤師・化学者   C.W. シェーレ 1742~1786年
19  ドイツのモルヒネの発見者   F.W. ザーチュルナー 1805年
20  フランスのキニーネの発見者   ペレティエとカヴェントゥ 1820年
21  アメリカの薬学の父,薬剤学者   W. プロクターJr. 1817~1874年
22  化学療法の発達   E.F.A. フルノー 1920年
23  抗生物質ペニシリンの発見   A. フレミング 1928年
24  医・薬学史と蛇

第2章 くすりの歴史―日本の薬学
1  日本の神話時代と古代のくすり
2  日本の古代の医療とくすり
3  正倉院薬物 天平勝宝8年(756年)
4  日本史に現われた主な疾病
5  日本の古い本草学(生薬学)書
6  日本の古い病院(薬局)と薬剤師の歴史
7  全身麻酔薬“通仙散”   華岡青洲(1805年)
8  江戸時代の民間薬,売薬の歴史
9  長井長義(日本の薬学の父) ─ エフェドリン 明治20年(1887年)
10  日本の医薬分業の歴史
11  日本の薬害の歴史とその反省

3章 くすりの文化
1  病原体の発見の前と後 ― ウィルヒョーとナイチンゲール
2  薬による願望実現
3  医師はどうして薬が好きなのか?
4  研究的要素を含む薬物治療における倫理と科学の両立
5  天上の薬と世俗の薬 ― 中世ヨーロッパの医療
6  近代イギリスの家庭の薬・薬の知識
7  統合医療とアーユルヴェーダ
8  薬師如来像とその薬壷への祈り

コラム
ソクラテスのファルマコン(薬)
高脂血症
薬種業の規則
インフルエンザ騒動
万金丹
徳川家康と万病円

索引