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カテゴリー: 臨床看護学  |  医学・医療一般

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本人の意思を尊重する意思決定支援

事例で学ぶアドバンス・ケア・プランニング

1版

国立長寿医療研究センター病院 緩和ケア科 西川満則 編集
東京女子医科大学 看護学部老年看護学 長江弘子 編集
いきいき在宅クリニック 横江由理子 編集

定価

2,970(本体 2,700円 +税10%)


  • B5判  229頁
  • 2016年12月 発行
  • ISBN 978-4-525-50021-4

合意形成に王道なし.41の事例から,その道のりを追体験!

治療を巡る意思決定を支援する際,認知症や家族内の意向対立といった問題で悩んだ経験はないだろうか?本書では,40以上の事例を厚労省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に準拠しつつ,本人の意思を現在・過去・未来の3つの時間軸でとらえて整理した.皆はどうしているのだろう?がわかる一冊.

本書で使われている意思決定支援用紙のフォーマット入手はこちらから!

  • 序文
  • 目次
  • 書評
序文
 日本は,団塊の世代が75歳以上になる年,いわゆる2025年問題に直面し,地域包括ケアにおいても,人生の最終段階の医療・ケア,最期の場所の選択等,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)やエンド・オブ・ライフディスカッション(EOLD)の重要性が増している.諸外国では,ACPを促進する人材である,アドバンス・ケア・プランニング・ファシリテーター(ACPF)中心の体制整備により,患者の意思が尊重され,患者家族の満足度が高まり,遺族の心の負担を小さくできることが示された.日本でも,2014年度,これらの教育プログラム,Education For Implementing End-of-Life Discussion(E-FIELD)が開発され,倫理的判断,法的解釈,コミュニケーションスキル,ACPの導入方法,汲まれた患者の意思を繋ぐ方法について学ぶ環境が整いつつある.
 このような時代背景の中,2012年6月から,「本人の意思を尊重する意思決定支援-事例で学ぶアドバンス・ケア・プランニング-」刊行プロジェクトを始動した.本書は,研究者によるACP解説,現場医療者が綴った事例集,編者による座談会の3つのパートで構成されている.
 ACPが行われるのは現場であり,実事例にあてはめ理解され,初めて役にたつ.各事例では,本人の意思決定能力,代理決定者の適格性,人や意見の対立,意思決定を行う時間的余裕がある時,さし迫った時,病気のステージ,倫理的課題などの重要な視点を明示し,事例を通して,ACPやEOLDを追体験できるようにした.また,事例に多様性をもたせ,認知症・フレイルといった高齢者医療,がん,臓器不全,救急,小児,在宅医療等,幅広い場面で,よく遭遇する疾患を中心に提示した.このため,本書上で,多領域医療者の価値観コミュニケーションが可能になった.例えば,高齢者医療に携わる医療者が,小児医療の章を読み追体験することで,高齢者医療にも資する学びを得る可能性が生まれた.各著者と自分の価値観の相違を意識しながら,時に批判的に,読み進めて欲しい.この経験が現場での合意形成の力を育むに違いない.読む順番についても,通読するもよし,インデックスを利用し読者にとって重要な章を拾い読みするもよし,使い方は自由である.
 我々は,ACPFを中心とした現場の実践に裏打ちされたACPの推進が,患者家族への恩恵のみならず,国益にも資する活動だと信じている.本書を読むことで,一人でも多くの現場のヘルスケアプロフェッショナルが,患者の意思を尊重する活動に参画していただけるきっかけになることを切に願っている.
 最後に,ご多忙の中,貴重な事例をお寄せいただいた方々に心よりお礼を申し上げたい.

2016年10月 
西川満則,長江弘子,横江由理子
目次
PART 1 理 論 編

1.アドバンス・ケア・プランニングとは
 A.アドバンス・ケア・プランニングの関連用語と概念定義
 B.代理意思決定者の意味と裁量権に関する最近の考え方
 C.「どう生きたいか」の価値を表出する支援としてのアドバンス・ケア・プランニングの意義

2.アドバンス・ケア・プランニングの基盤となるもの
 A.日本における「望ましい死」の概念
 B.アドバンス・ケア・プランニングの倫理的意義とその課題
 C.意思決定支援を推進する人材育成


PART 2 事 例 編

事例編をお読みいただくにあたって ―「本人の意思の3本柱」と「意思決定支援用紙」について―

1.最期の場所の選択において本人・家族の意見が一致しているが,将来の気持ちの変化を予測対応した末期心不全患者の支援
2.中等度認知症患者の意思決定において,家族が代理意思決定者として必ずしも適任とは言えない場合の支援
3.本人と家族の意向が乖離した超高齢心不全患者の人工栄養法の選択
4.ASOを有した中等度認知症患者の下肢切断について患者と家族の意向が分かれた場合の選択
5.ケアの継続が困難なBPSDを有するが,家族が施設で最期を迎えさせたい認知症患者に対する最期の場所と鎮静の程度の選択
6.経口摂取が本人利益であるのか悩ましい認知症患者,食事介助が支えになっている主介護者に対する栄養投与法の選択
7.老衰で食べられないことは自然であると理解できるが感情的に受け入れられない家族の葛藤
8.非使用胃瘻をもつ施設入所者が再び経口摂取ができなくなった時の胃瘻を再開するしないの選択
9.認知症高齢者が経口摂取できなくなった時に備えた胃瘻を選択するかの確認
10.認知機能が低下しているかもしれない肺がん患者が完治しない治療はしないという時の抗がん薬の選択
11.誤嚥による窒息死の可能性が高い終末期患者が口から食べることを望む時の経口摂取の選択
12.遠い緩和ケア病棟と自宅近くの病院についての療養環境の選択
13.心肺停止状態で救急初療室に搬送された患者の推定意思を尊重した家族への意思決定支援
14.透析を拒否している認知症患者と透析導入を説得したい家族の意見の乖離
15.救命可能なCOPD急性増悪時に患者が拒否する人工呼吸器治療を実施するしないの選択
16.家族間で本人にとっての最善が異なる場合の重度認知症患者の最期の場所の選択
17.成年後見人はいるが医療代理人がいない場合の認知症患者の胃瘻導入を巡っての選択
18.COPD患者の急性増悪期の人工呼吸器装着を巡り,家族が患者の立場に立った判断ができない場合の選択
19.本人の意思推定が難しいCOPD急性増悪患者の人工呼吸器装着を巡っての救急初療室における妻の代理意思決定支援
20.自宅での看取りのために透析治療を見合わせた末期がん患者の支援
21.再挿管のリスクがある末期心疾患の患者が抜管を希望したケースにおける医療者・家族間の価値の対立
22.軽度認知機能低下のある大腸がん患者の抗がん薬治療の選択
23.医学的利益と本人の希望が乖離した糖尿病患者の住環境の選択
24.施設入居時にルーチンにアドバンス・ケア・プランを話し合うかどうかの選択
25.経口摂取拒否の認知症患者に対し,主治医はうつ治療により食べられるようになる,家族は看取りでよいと考えている場合の栄養投与の選択
26.全身状態不良の肺小細胞がん患者が主治医の推奨しない抗がん薬治療を望む場合の選択
27.事前に表明された患者の過去の意思に反して,家族の意向により胃瘻や人工呼吸器が選択された事例
28.本人の意思推定は難しく,救命の可能性があるにもかかわらず安楽死を望む家族の支援
29.本人の意思推定は難しく,無益な積極的治療を行わないという意思決定を土壇場で覆した家族の支援
30.医療行為を拒否する若年性認知症患者の支援
31.家族への病状説明を拒否した末期心不全患者の集中治療室でのアドバンス・ケア・プランニングの実践
32.がん患者の鎮静を巡る医学的妥当性,患者と家族の意見の乖離
33.気管切開に関して本人と家族,家族間で意見の異なるALS患者の呼吸管理方法の選択
34.非侵襲的陽圧換気の継続に関して本人と家族の意見が異なるALS患者の呼吸管理方法の選択
35.透析導入を拒否する壮年期糖尿病患者の意思決定に寄り添う支援
36.急速に進行する若年性膵がん患者への予後告知について主治医や家族間で意見の異なる場合の告知のありかたの選択
37.手術適応外となった若年性胆管がん患者への予後告知を,両親が反対し本人が疑問を抱いている場合の告知のありかたの選択
38.学童期に脳腫瘍を発症した患児への病状告知の支援
39.幼児期に脳腫瘍を発症した患児の親の治療選択に関する意思決定支援
40.インフルエンザ脳症により急なレベル低下をきたした幼児の家族の受容と人工栄養選択に対する支援
41.新生児期にハイリスク手術を要する患児が手術を受けるか否かについて

PART 3 展 開 編
座談会 意思決定支援の普及と質の向上を目指して

索 引
書評
蘆野吉和 先生
(日本ホスピス・在宅ケア研究会理事長 社会医療法人北斗 地域包括ケア推進センター長)

 本書はアドバンス・ケア・プラニングの解説(理論),事例集,座談会の三部構成になっていますが,事例を読み,41通りの「いのち」の物語が綴られていることに感動しました.それぞれの物語では,本人(患者)の思い,家族の思い,および医療者の思いを編み込む非常に繊細な作業が時に短時間で,時に長い時間をかけて行われています.そして,ここでは対応している医療者の温かさと真摯な態度を感じます.それは,おそらく,医療者が患者本人を「地域で生活している人間」として対応しているからだと思います.
 各事例における対応では,もう一つ重要な視点が汲み取れます.それは,グリーフケアを含めた家族ケアを非常に大切に(重視)していることです.行われたACP,あるいは意思決定支援の結果は家族の思いとして引き継がれ,家族の人生観,死生観に大きな影響を及ぼします.ここでは,医療者には,その影響を俯瞰し,グリーフケアの視点で想像力を働かせる資質を備える必要性が示唆されています.これが私たちが求めている日本の風土にあった理想的なACPの形かもしれません.
 そして,理論編にはACPに関する重要なメッセージが込められていると感じました.ここではACPを医療の課題としてではなく,地域社会の課題として取り組む必要性が強調されています.「ACPの中に基本的に医学的な価値よりも,その人の生活や人生も含めた価値を優先するという考え方がある」という文言があります.これは非常に重要なことです.ACPは本来,医療を受ける側の権利として生まれてきたもので,これはインフォームドコンセント(IC)という言葉と同じですが,日本ではICが医療用語になってしまった二の舞は避けたいと切に願っています.
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