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カテゴリー: 精神医学/心身医学  |  産婦人科学

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妊婦の精神疾患と向精神薬

1版

三重大学 名誉教授 岡野禎治 監訳
順天堂大学医学部附属越谷病院メンタルクリニック 教授 鈴木利人 監訳
国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター 渡邉央美 監訳
Megan Galbally 原著
Martien Snellen 原著
Andrew Lewis 原著

定価

3,850(本体 3,500円 +税10%)


  • B5判  228頁
  • 2018年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-38241-4

周産期の精神科診療をサポートしてきた書籍の翻訳版!

"Psychopharmacology and Pregnancy"の翻訳版.周産期の精神疾患の経過や治療の有効性を整理するとともに,妊娠中の薬物曝露研究の評価に必要な基礎知識を解説.本書では,わが国での実情を注釈として加え,臨床で活用しやすい情報となるよう編集した.周産期における精神科診療の問題解決の糸口となる一冊.

  • 目次
  • 序文
  • 書評
目次
①Introduction:妊娠中の精神疾患の薬物治療
 はじめに

②妊娠中に精神科治療薬を処方される場合のインフォームド・コンセント取得プロセス
 はじめに
 善 行
 自律性
 「インフォームド・コンセント」とは何か?
 法と倫理的実践の要求条項
 インフォームド・コンセントの原則
 判断能力
 自発性
 情報開示と推奨
 理 解
 意思決定と権限委任
 どうしたらよいのか?

③文献の批評的評価:観察研究の複雑さを理解する
 はじめに
 研究の種類
 診療報酬請求データベース
 研究の評価
 統計分析の結果の理解
 論文要旨の評価
 結果の妥当性に疑問を呈すること
 文献レビューにおける選択バイアス
 研究デザインは結果に影響を及ぼすか?

④セロトニン再取り込み阻害薬の出生前曝露に影響する母体と胎児の因子
 導入・背景
 妊娠中の胎児の薬物曝露
 胎児および新生児における
 SRI曝露の影響:非臨床のエビデンス
 薬物代謝と遺伝的多様性
 母体の妊娠への適応とそのSSRI・SNRI薬物動態への影響
 SRIとの相互作用
 胎児SRI曝露に対する胎盤の寄与
 SRI代謝に対する胎児の寄与
 周産期メンタルヘルスの臨床医のための留意点

⑤妊娠うつ病と子どもの発達:トランスミッションメカニズムの理解
 はじめに
 周産期のうつ病の疫学
 母親のうつ病に伴う児の転帰
 トランスミッションメカニズム
 妊娠うつ病と胎児プログラミング
 糖質コルチコイドの役割
 胎児のHPA系の発達
 胎盤の役割
 胎児発達のエピジェネティクス

⑥妊娠中における大うつ病薬物療法のマネジメント
 はじめに
 うつ病が及ぼす影響
 妊娠中におけるうつ病の再発リスク
 妊娠中におけるうつ病の評価
 妊娠中におけるうつ病の治療
 抗うつ薬使用に伴う妊娠合併症と新生児合併症
 特異的な臨床的考慮点と推奨されるモニタリング
 妊娠中におけるうつ病の治療において推奨されるべき事項

⑦不安・睡眠障害,精神薬理学と妊娠
 不安障害と妊娠・出産
 ベンゾジアゼピン系薬剤と妊娠
 プレガバリンと妊娠
 不眠症と妊娠
 催眠薬と妊娠
 妊娠中の不安障害の管理

⑧双極性障害:精神薬理学と妊娠
 はじめに
 女性における双極性障害
 妊婦における双極性障害
 妊娠中の双極性障害の治療
 妊娠中の双極性障害に対する特異的な治療の安全性
 妊娠中のリチウムの安全性
 妊娠中の抗けいれん薬の安全性
 妊娠中の抗精神病薬の安全性
 臨床的留意事項とされているモニタリング
 リチウム:妊娠中のモニタリング
 抗けいれん薬:妊娠中のモニタリング
 抗精神病薬:妊娠中のモニタリング
 妊娠中に気分安定薬,抗精神病薬を使用する場合のモニタリングの概要
 妊娠中の双極性障害女性の治療に関する推奨事項

⑨統合失調症と妊娠,精神薬理学
 統合失調症:概要
 周産期における統合失調症の自然経過
 周産期に精神状態を改善しうる治療についてのエビデンスの要約
 妊娠中に統合失調症の治療を行わないリスク(母親,妊娠,胎児に対して)
 現代の問題としての母体と胎児の向精神薬曝露
 抗精神病薬
 マネジメント

⑩産後精神病
 疫学,現象学,診断
 産後精神病の診断分類:歴史
 産後精神病と双極性障害
 治 療
 薬物療法
 母子のボンディング
 再発エピソードの予防

⑪周産期における境界性パーソナリティ障害と摂食障害
 境界性パーソナリティ障害
 摂食障害

⑫妊娠中における物質乱用の管理:母体と新生児それぞれの観点から
 妊婦における物質使用・依存 
 新生児薬物離脱症候群

⑬妊娠中の精神科領域の補完代替療法
 はじめに
 高照度光療法
 S-アデノシルメチオニン(SAMe)
 頭蓋電気刺激療法(CES)
 必須脂肪酸
 葉酸塩・葉酸・L-メチル葉酸塩
 ビタミンD
 酸化ストレス

⑭妊娠中の電気痙攣療法
 はじめに
 妊娠中のECTの適応とバリア
 妊娠中のECTに関連するリスク


索 引
序文
 本書は,M Galbally,M Snellen,A Lewisらの編集による“Psychopharmacolgy and Pregnancy, Treatment Efficacy, Risks, and Guidlines”(Springer,2014)の翻訳書である.書名は「精神薬理と妊娠」と訳すことができるが,周産期の精神疾患に関する良質なエビデンスが豊富に記載されていること,それと並んで周産期の向精神薬の薬物療法も基礎から実践まで丁寧に記述されていることなどから,本書のタイトルを「妊婦の精神疾患と向精神薬」とした.
 さて,本書にはいくつかの特徴がみてとれる.その一つが,編者であるオーストラリアの3人の研究者を中心としてカナダ,イタリア,イギリス,オランダとさまざまな国の研究者が執筆に参加していることである.さらに,精神科医を中心として臨床心理士や産婦人科医などの多職種が参画している.これらは,本書の内容が一国の医療事情に限定するものではなく,国際的に応用できるものであることを反映しており,また精神科医にとどまらず,周産期メンタルヘルスに関与する多職種の医療関係者に向けたものであることを示している.二つ目の特徴として,周産期精神医療を専門とする精神科医により第6章の大うつ病から第11章のパーソナリティ障害,摂食障害までの精神疾患編において,非常に精力的な記載がされていることである.三つ目の特徴として,「精神疾患と薬物治療」にとどまらず,これらの研究を理解する上で必要な基礎知識についても,第1章から第3章まででしっかりと述べられていることである.
 本書は2014年に発刊され,すでに4年の歳月が経過している.とはいえその新鮮で卓越した内容に普遍性を感じ,敢えてこの度翻訳に踏み切った.翻訳は,周産期メンタルヘルス分野に精通した精神科医と,国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センターのスタッフの先生方に,それぞれ精神疾患編と薬物治療編に分かれて翻訳を担当いただいた.短期間にかかわらず膨大な量の翻訳に尽力されたご努力に,監訳者を代表して深謝申し上げたい.本書が国内の周産期メンタルヘルスに携わる精神科医,産婦人科医,小児科医,薬剤師,臨床心理士,看護師,助産師などの幅広い医療関係者に広く読まれることを,翻訳者一同期待している.本書がこれまでの関連書籍では得ることのできなかった貴重な情報を提供し,その結果として質の高い医療が患者さんに少しでも還元されればこれ以上の喜びはない.
 最後に,本書の作成にあたり,Springer社との交渉から多くの翻訳者とのやりとりを経て,出版に至るまでの長きの過程に多大なご尽力をいただいた,南山堂古川晶彦氏,山田歩氏に衷心よりお礼申し上げる.

2018年4月
監訳者を代表して 鈴木利人
書評
妊娠・出産とこころの問題にまつわるあらゆる疑問を解く医療スタッフ必携の書

渡邊衡一郎 先生(杏林大学医学部精神神経科学教室 教授)

 妊産婦加算が産科・精神科で保険制定されたことからもわかるように,妊産婦の精神科疾患が注目を集めている.精神科疾患を持つ女性が妊娠を考えた場合,さらに妊娠が判明した場合には,医師として薬物をどう捉えるべきか,また薬物の胎児や初乳への影響などを当事者に詳細に説明する必要がある.しかし,“妊娠と薬物の関係”について,エビデンスは散見されるものの,具体的な推奨が記載された成書というのはほとんど存在しない.頼りにしていた米国食品医薬品局(FDA)も,薬剤のラベリング(C:動物実験では胎児への有害作用が証明され,妊婦への研究が存在しないが,潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうる,D:ヒト胎児のリスクを示唆する明らかなエビデンスがあるが,潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうるなど)の記載がなくなり,個々のエビデンスと一部の向精神薬が記載されるのみとなってしまった.われわれ医師が正確に理解し、信頼できる指標が待ち望まれる中,本年待望の指南書が上梓された.それが本書である.
 本書は,2014年に発刊された“Psychopharmacology and Pregnancy, Treatment Efficacy, Risks, and Guidelines” の翻訳書である.まず,本書が他の成書と比較して優れている点は,薬物療法の推奨が記載されているだけでなく,それをどのように当事者に説明するべきかについても丁寧に記述されていることである.例えば,“インフォームドコンセントの重要性”の章では,そもそもインフォームドコンセントとはどういうものであり,どうあるべきかから始まっている.このように,改めて基本を丁寧に説明した上で実臨床にいかにして活かすか,という流れで記載されている.エビデンスだけでなく,基礎知識の解説も充実しており,例えば胎盤の働きのような基本に立ち戻る話題からエピジェネティクスのような最新の話題についてまで,分かりやすく論じている.こうした基礎知識を十分に理解させた上で,抗うつ薬のとらえ方,薬を続けることの利点や起こりうる合併症,さらに一つひとつの薬の問題についても論じている.また,疾患単位でもうつ病,双極性障害,統合失調症だけでなく,パーソナリティ障害や摂食障害などにも話題を広げ,基本から応用までこの一冊で網羅している.
 “妊娠と向精神薬”の研究においては結論がさまざまであり,時に臨床家を悩ます一因となっているが,それについても臨床試験のデザインや対象,方法論の違いについて説明し,その結果をどう読み解くべきかを解説しており,大変役に立つ.話題の産後精神病にも焦点を当て,最後は補完代替医療にまで触れており,評者は本書ほど包括的な書籍はこれまで見たことがないように思う.
 精神科医が診療を行う上で,あるいは産科医が精神科疾患例に遭遇した場合,当事者や家族とどう取り組むべきかについて非常に有意義な判断材料を提供してくれる本書は,当事者に関わる助産師,薬剤師を含め,あらゆる場面で重宝され,多くの人にとって必携の書となることは間違いないだろう.
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