2010年 1版
定価:2,520円(本体2,400円+税5%)
一般的な不妊治療(タイミング療法など)でなかなか赤ちゃんを授からない時にチャレンジする体外受精について,専門医がわかりやすく,かつ具体的にその手順を紹介.体外受精について勉強したい患者さん,または不妊治療に携わる看護師,胚培養師,助産師の方にも読んで頂ける内容.参考資料としてホルモン製剤,治療費,略語の一覧を記載した.
瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ
いづくより 来りしものぞ 眼交に もとなかかりて 安眠し寝さぬ
万葉集にある山上憶良の子を思う歌です.
子供はどこからやって来る賜物なのでしょうか.
普通,夫婦生活を続ければ,数年を経ずして赤ちゃんが生まれます.しかし,なかなか授からなかったとしたら,その不安と焦りは計りしれないと心が痛みます.
数十年前,私が医師になりたての頃,不妊治療といえば,排卵誘発剤の投与,人工授精,卵管通水法あるいは手術療法くらいしかなく,日常の不妊診療の中で,夫婦の期待に沿える成果をあげることができず,無力さを感じていました.また最近では,女性のライフスタイルの変化によって晩婚化が進み,不妊治療は一層困難さを増しています.
こんな時,登場したのが生殖革命ともいえる体外受精でした.その後,この新しい医療技術は世界中に広がり,多くの赤ちゃんの誕生がみられましたが,一方では,失望と落胆の中で治療を打ち切り,去って行った夫婦も少なくありませんでした.卵子の加齢による妊孕性の低下,高額な医療費,そして,それを支える社会のサポート体制の不備などが主な要因でした.
その頃,長年の大学での研究生活に終止符を打ち,私的病院で診療を始めました.その中で,不妊に悩む夫婦の声を身近に聞き,いろいろと感じるところがありました.以来,今まで書き留めてきたメモや雑誌に投稿したものをまとめて,体外受精についてわかりやすく,かつ詳しく解説しながら書き上げたのが本書です.
書き始めてから,あっという間に 1年が過ぎ,やっと上梓することができました.体外受精を考えていらっしゃる方々に本書を読んでいただき,余計な不安や焦りに惑わされることなく体外受精に臨まれ,赤ちゃんを胸に抱かれる日が来ることを心より祈っています.
2010年 8月成田 収
はじめに………1
第1章 不妊症とは
〔A〕不妊症の定義と実態……… 3
参考:海外の学会による不妊症の定義………3
1)年齢とともに高まる不妊症の頻度………3
2)不妊症の原因としての環境汚染………4
参考:有害な環境物質………4
3)性の乱れが及ぼす影響………4
4)高まる晩婚化の影響と高齢妊娠………5
コメント:結婚前にライフプランを立てておきましょう………5
〔B〕不妊症の治療はどのように進歩したか………6
〔C〕不妊症の原因となる疾患─どんな疾患が増えているのか─………7
第2章 不妊症の一般的検査と体外受精前に必要な検査
〔A〕女性側の一般的検査………11
1)基礎体温の測定………11
参考:黄体機能不全とは………13
2)卵管疎通性検査………14
3)フーナーテスト(性交後検査)………15
4)抗精子抗体の検査………16
5)卵巣ホルモンと視床下部-下垂体-卵巣系ホルモンの測定と負荷テスト………16
6)プロラクチンの測定と負荷テスト………17
7)甲状腺ホルモンと副腎皮質ホルモンの測定と負荷テスト………17
8)男性ホルモンの測定………18
〔B〕女性側の特殊検査………18
1)子宮鏡検査(ヒステロスコピー)………18
2)腹腔鏡検査………18
3)卵管鏡検査………19
4)染色体と遺伝子の検査………19
5)糖負荷とインスリンの測定………19
6)自己免疫疾患,血液の凝固異常の検査………20
〔C〕男性側の検査………20
1)精液の検査………20
コメント:人工授精(AIH,IUI-H)とは………21
2)その他の精子機能検査………23
参考:特殊な精子機能検査………23
第3章 体外受精・胚移植法とは
〔A〕体外受精の定義と適応………25
コメント:生殖補助医療(ART)とは………25
1)体外受精を受ける前に考えてみること………26
コメント:体外受精を決心する前に………27
2)体外受精の適応………27
コメント:体外受精についての学会による規定………29
〔B〕採卵前に必要な検査………29
〔C〕体外受精の流れ………30
第4章 体外受精の実際①──調節卵巣刺激(COS)
〔A〕卵巣刺激を行う理由………31
参考:ホルモンの種類と説明………31
〔B〕卵巣予備能の検査─卵巣刺激法の選択にあたって─………33
コメント:ホルモン測定による成熟卵子数の予測………33
1)適切な卵巣刺激法の選択………34
2)卵巣刺激法に必要な前処置と検査………34
〔C〕卵巣刺激法の種類と方法………35
1)GnRHアゴニストを使用する卵巣刺激法………35
参考: GnRHアゴニストの注射薬と点鼻薬の違い………35/ GnRHアゴニスト使用時に知っておくべきこと………36
/調節卵巣刺激を行う前に使用するピル(経口避妊薬)の役割………38
コメント:FSH/hMG剤注射の通院の負担を減らすには………37
2)GnRHアンタゴニストを使用する卵巣刺激法………38
コメント:hCG剤に代わってGnRHアゴニストを用いる利点………40
3)患者さんにやさしい卵巣刺激-体外受精法………40
コメント: 採卵時期のモニタリング………41/自然周期採卵法とその変法の有効性と適応………43
参考:クロミフェンとは………43/レトロゾール(フェマーラ (R))………44
第5章 体外受精の実際②──採卵・精液採取から媒精まで
〔A〕採卵の実際………47
〔B〕精液の採取─夫の出番─………48
1)精子の凍結保存………48
コメント:精子を凍結保存した場合の留意点………49
〔C〕卵子・精子の培養と受精………49
参考:通常の体外受精以外の生殖補助技術………49/異常受精とは………50
第6章 体外受精の実際③──胚移植とその後
〔A〕胚移植………51
コメント:胚移植の際に懸念されること………51
1)胚の分類と良好胚 ─どんな胚が着床しやすいか─………51
参考:生殖補助医療に関する認定制度………52
2)胚盤胞移植法………54
3)補助孵化 ─アシステッドハッチング(AH)─………57
4)子宮内膜の状態と着床との関係………58
5)移植胚数についてのガイドライン………59
〔B〕胚移植後の生活と黄体期の管理………60
1)胚移植後の日常生活………60
2)黄体期の管理………61
第7章 凍結融解胚移植法の成功と臨床応用
〔A〕胚の凍結保存・融解法の問題点………63
1)胚を凍結保存した場合の奇形の頻度と倫理的問題………64
〔B〕凍結融解胚移植の実際………64
1)整調な排卵周期を示す場合………65
コメント:凍結融解胚移植時の注意点………65
2)排卵障害を示す場合………66
第8章 体外受精の適応となる重要疾患
〔A〕多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)………69
参考:多嚢胞性卵巣症候群とインスリン抵抗性への対策………71
〔B〕高プロラクチン血症………72
〔C〕クラミジア感染症………73
〔D〕子宮筋腫………74
〔E〕黄体機能不全………75
〔F〕早発卵巣不全(POF)………75
〔G〕子宮内膜症………76
1)妊娠を希望する場合の治療法の選択………77
コメント:チョコレート嚢胞の悪性化………79
2)体外受精の適応………79
〔H〕男性不妊………79
参考:男性不妊の原因………80
1)顕微授精の進歩と適応………80
参考:顕微授精法の種類………81
2)1日遅れの顕微授精(1 day old ICSI)………82
参考:顕微授精についてのその他の知識………83
コメント:精子細胞を用いた顕微授精について………83
3)無精子症の場合………84
参考:その他の精子回収法………84
4)スプリット法………85
第9章 体外受精の問題点
〔A〕卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生………87
1)卵巣過剰刺激症候群が起こりやすいタイプ………88
2)予防策………89
参考:コースティング法とは………89
〔B〕多胎妊娠の発生………91
コメント:多胎妊娠と産科的合併症………91
〔C〕流産と子宮外妊娠の発生………92
〔D〕採卵後の合併症の発生………95
第10章 体外受精の成績と先天異常の発生
〔A〕体外受精の成功とは─大切な生産分娩率の評価─………97
〔B〕世界の体外受精の成績………98
1)アメリカの成績………98
2)ヨーロッパの成績………98
3)日本の成績………98
4)体外受精の成績の国際比較………102
5)日本の体外受精の成績が低い理由………102
〔C〕先天異常の頻度………103
参考:遺伝性疾患に関する用語………104
〔D〕顕微授精による先天異常発生への影響………105
〔E〕出生前検査………106
1)トリプルマーカーテスト………106
2)羊水穿刺 ─その安全性─………106
〔F〕着床前診断(PGD)………107
第11章 体外受精に関して知りたいこと
〔A〕体外受精を決心するタイミング………109
コメント:なるべく早めの診察を………109
〔B〕1年間に体外受精を受けられる回数………110
〔C〕妊娠しにくい人の特徴………110
1)高齢女性の場合………110
2)卵巣刺激に対して低反応の場合─卵巣の手術の影響─………111
3)子宮因子がある場合………111
4)男性側に問題がある場合─加齢や肥満の影響─………112
参考:BMI(body mass index)………112
5)不摂生な生活習慣がある場合………112
6)その他………112
コメント:セックスレスカップルの増加………113
〔D〕体外受精の回数と卵巣癌の関係………113
〔E〕体外受精の可能な年齢………113
〔F〕体外受精をあきらめた方がよい場合………114
参考:閉経までの残された時間と抗ミュラー管ホルモン………115
第12章 体外受精の社会的問題と未来への展望
〔A〕卵子・胚提供と代理妊娠(懐胎)による体外受精………117
1)卵子・胚提供による体外受精………117
参考:体外受精にかかわる日本産科婦人科学会の会告………118
2)体外受精と代理妊娠………118
参考:日本における代理母問題に関する議論………119
〔B〕体外受精の経済学………119
1)体外受精の費用………120
2)不妊治療に対する公的助成制度………121
3)不妊専門相談センターの設置………122
〔C〕体外受精の未来への展望………122
1)老化卵子に対する若返り法はあるのか………122
2)卵子の凍結保存………122
3)卵巣組織の凍結と移植─妊孕性保存の救世主となり得るか─………123
4)再生医療の導入………123
おわりに………124
引用・参考文献………125
参考資料………128
知っておきたい不妊治療関連略語………130
日本語索引………131
外国語索引………136