2010年 1版
定価:3,360円(本体3,200円+税5%)
在宅の患者さんのQOLや疾患の管理にとっても,栄養の関与が強く意識されるようになってきた.本書では経口および経管栄養に関する実践的な知識を,エビデンスを考慮しながらも,現場での経験も踏まえて,コンパクトに整理した.栄養士のいない診療所で在宅医療に取り組んでいる医師・歯科医師にとっても,すぐに役立つ情報満載の一冊である.
在宅医療が対象としている患者さんの多くが日常生活に何らかの支援を必要とする方々である.高齢者,障碍者,悪性腫瘍の患者さん,慢性呼吸不全の患者さんなど,強く周囲の環境に影響される方々である.
そういった患者さんの多くが,基本的な栄養について実は非常におろそかにされている,という事実を私たちは認識する必要がある.
私が卒業した当時,医学部の授業で臨床栄養や低栄養について語られることはほとんど無く,栄養の管理をどのようにしたらよいかという事も卒後研修では,おろそかにされていたという感が強い.現在,在宅医療の担い手となっている多くの医師が,私と同じような環境で医学を学び,それが為に,栄養の管理というと苦手意識を持っている方も少なくないのではないかと思う.そういった方たちが本書一冊を傍らに置けば,通常の在宅医療の現場での栄養管理をある程度自信を持って実践できることを目標に編集した.
本書ではまず,在宅でよく見る高齢者の栄養について原則的な事柄を解説している.低栄養,在宅高齢者の栄養評価,摂食状況の調査など在宅医療で多く経験し特徴的な事柄についてそれぞれの分野で実践している医師,歯科医師,管理栄養士,看護師の方々に執筆していただいた.また,身体計測や経管栄養の指導,胃瘻の管理など慢性期の長期管理に付随する事柄についての解説もそれぞれ現場で実践している方々に執筆をお願いした.
第部の疾患別の項目については,在宅にこだわらず,その疾患特有の栄養的な事項について原則的な解説をお願いした.在宅医療の現場は非常に個別性が高く,原則をきちんと踏まえた上でそれぞれの環境や対象者の希望に合わせて形を変えていく必要がある.ここに書かれている原則をどのように個々の患者さんや環境に当てはめていくのかは読者の方々と対象者の方々とで個別に決めていく必要があると考えたためである.なお,在宅医療の対象となるような重度の慢性呼吸不全を来したCOPDの方の場合には栄養介入が明確に予後を改善するという根拠が未だ示されていないことから,あえて呼吸不全の栄養管理については今回は触れずにおいた.
また,栄養にまつわる倫理的問題について,章を設けて専門家の方に解説して頂いた.認知症患者の人工栄養を果たして導入するべきかどうか,胃瘻を作ることが本当に本人の為になるのかどうかなど,日々倫理的な葛藤の中で多くの臨床医が仕事をしていることと思う.栄養管理を行う上で倫理的な問題は避けて通ることができない重要な課題であると感じている.是非,一読されることをお勧めする.
本書が在宅医療の現場で様々な栄養上の問題に悩んでいる医師,歯科医師,栄養士,看護師,患者さんたちの手助けになることを願っている.
I 高齢者が食べられないときの対処
1 在宅医療と低栄養
1.低栄養の病態
a.蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM)
b.PEMの診断
c.PEMの発生頻度
d.PEMの原因
2.高齢者が痩せた時に忘れてはいけない病態
a.悪液質 cachexia
b.筋肉減少症 sarcopenia
c.微量栄養素について
3.低栄養へのアプローチ
Tips 1 在宅での体重測定─栄養状態を簡単に把握評価できる指標!
Tips 2 寝たきりの人の身長を測ろう─身長計測値は必要栄養量算出の要!
2 高齢者の栄養評価
1.高齢者の低栄養に必要なアセスメントツール
2.管理栄養士が介入した場合のアセスメントと栄養評価
3.スリーステップ栄養アセスメントとは
a.スリーステップ栄養アセスメントの構成
b.看護師・ヘルパーなど誰でもできる「第1段階調査」
c.努力すればできる水分量把握の「第2段階調査」
d.栄養士・管理栄養士の力を借りたい「第3段階調査」
4.スリーステップ栄養アセスメントの効果
別表1.栄養スクリーニング(通所・居宅)
別表2.SGAスコアリングシート
別表3.MNA(簡易栄養状態評価表)
Tips 3 高齢者と脱水
Column 在宅チーム医療に管理栄養士の活躍の場を
3 栄養投与量の決め方
1.必要カロリー量の決定
2.必要蛋白量の決定
3.必要水分量の決め方
4.ビタミン・ミネラル・微量元素
5.エネルギーの配分
別表4.日本人の食事摂取基準 2010(抜粋)
4 栄養投与経路の選択
1.ガイドラインでは
2.実際の在宅の現場では
a.投与経路の原則1:口から食べる!
b.投与経路の原則2:経管栄養は常に念頭に置く
c.投与経路の原則3:経口と経管の併用を考慮する
3.様々な経管栄養法について
a.胃瘻と経鼻胃管
b.P-TEG(percutaneus trans-esophageal gastric tubing)
c.腸 瘻
d.強制栄養を行わないという選択
4.経静脈栄養の選択について
5 経口摂取者へのアプローチ
A.摂食・嚥下機能評価と嚥下訓練
1.在宅における摂食・嚥下障害への対応
a.摂食・嚥下の基本機能
b.摂食・嚥下障害の原因
c.嚥下障害を疑う主な症状
d.摂食・嚥下におけるスクリーニングテスト
e.VF検査とVE検査
2.在宅口腔リハビリテーションの意義と内容と他職種との連携
3.在宅において知っておくべき嚥下訓練と口腔リハビリテーション
Column 在宅診療における歯科医の役割
B.食事摂取量の調査
1.聞き取り調査
2.患者・介護者による食事記録
3.食事写真記録
C.不足量充足のためのアプローチ
1.摂取量不足への対応
2.食形態の工夫
a.咀嚼や嚥下機能に対応した食形態
b.咀嚼・嚥下しにくい食品・料理
c.増粘剤の使い方とポイント
6 経管栄養へのアプローチ
A.胃瘻(PEG)の造設・管理と地域連携
1.PEGの造設方法
2.PEGの長期管理:申し送り書に沿って
a.胃瘻カテーテルの名称
b.胃瘻カテーテルの種類
c.バルーン水の管理
d.胃瘻カテーテルの規格
e.胃瘻造設日(手術日)
f.胃瘻造設医療機関
g.最終カテーテル交換日
h.定期的交換の目安
i.外部ストッパーの位置
j.栄養剤名
k.栄養剤投与量
l.追加する水分量
m.特記すべき申し送り事項
3.PEGの合併症
a.バンパー埋没症候群
b.栄養状態改善に伴うカテーテルシャフト長の不均衡
c.胃内バルーンによる十二指腸の閉塞
d.胃内ストッパーの物理的刺激による対側胃粘膜の潰瘍
4.事故抜去への対応
a.事故抜去の予防
b.事故抜去への対応策
5.カテーテル交換
a.PEGカテーテルの交換方法
b.交換に関する重要事項
c.交換後の確認
d.保険請求上の問題点
B.P-TEGの適応と管理
1.P-TEGの造設手技およびその適応
a.術前検査
b.造設手技
2.P-TEGの交換
3.長期におけるメインテナンス上の問題点
a.カテーテル閉塞
b.スキンケア
c.事故(自己)抜去
C.経鼻胃管の管理
1.在宅栄養管理における経鼻経管栄養法の位置づけ
2.経鼻胃管の種類と使い分け
3.経鼻胃管挿入手技とピットフォール
a.挿入手技
b.留置位置確認
4.経鼻胃管留置に伴う合併症
a.経鼻胃管挿入時
b.留置中
c.チューブ閉塞
5.家族への指導
D.栄養剤の選択
1.経腸栄養剤の分類
2.栄養成分からみた栄養剤の種類
a.天然濃厚流動食
b.人工濃厚流動食(1):半消化体栄養
c.人工濃厚流動食(2):消化体栄養
d.人工濃厚流動食・:成分栄養
3.医療保険制度からみた濃厚流動食の種類
a.医薬品扱いの濃厚流動食
b.食品扱いの濃厚流動食
4.形状からみた栄養剤の種類
a.粉末状栄養
b.液状栄養
c.半固形化栄養
E.栄養剤の固形化
1.栄養剤の形状について考える
a.多くの栄養剤が液体である理由
b.液体栄養剤の問題点
2.栄養剤の固形化とは
a.半固形化栄養と固形化栄養
b.固形化栄養の効果
c.栄養剤固形化の適応
3.固形化栄養の実践
a.固形化栄養におけるゲル化の方法
b.市販品を使用するか調理を行うか
c.固形化栄養の調理法
d.固形化栄養の投与法
Tips 4 経管栄養の家族指導
7 経静脈栄養患者へのアプローチ
1.HPNの適応疾患
2.HPNの禁忌
3.HPNの実施条件
4.HPNの使用血管(アクセスルート)
5.アクセスデバイス
6.注入デバイス
7.輸液セット・穿刺針
8.HPNで使用する薬剤
9.薬剤のデリバリー
10.その他の器具
11.輸液注入法
12.皮膚消毒法と皮膚穿刺法
13.患者教育
14.HPNの合併症と対策
15.フォローアップ
16.医療廃棄物
8 在宅栄養管理における感染
1.中心静脈栄養と感染
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
2.CRBSIを起こす病原微生物の種類
3.中心静脈カテーテルの感染予防
a.種類と器具
b.挿入部位
c.挿入時の感染予防
d.カテーテル交換・ルート交換の手順について
4.感染を起こしたときどうするか
a.通常の診療手順
b.カテーテル感染を起こしたが抜去できないときどうするか?
5.ルート交換に際して家族に何を指導すべきか
6.経管栄養と感染
II 在宅でよくみる各種疾患の栄養管理
1 褥瘡の栄養管理
1.褥瘡の発生原理
2.創傷治癒における栄養改善の意義
a.摂取カロリー量の低下
b.摂取蛋白質量の低
c.糖尿病と創傷治癒
d.創傷治癒とその他の栄養素
3.在宅褥瘡症例と問題点
症例1 誤嚥性肺炎と口腔ケア・嚥下訓練
症例2 栄養管理は知識のみではダメ
症例3 管理栄養士の関与が重要
症例4 誤嚥性肺炎を繰り返し,PEGで対応した例
2 腎臓病・腎不全患者への対応
1.慢性腎臓病の定義とステージ分類
2.慢性腎臓病の在宅栄養管理
a.エネルギー
b.蛋白質
c.食塩制限
d.カリウム
e.リ ン
3 肝不全・肝硬変患者への対応
1.肝硬変における栄養療法の意義
2.肝硬変の栄養代謝異常の特徴
a.エネルギー消費量
b.基質利用
c.腹水や肝性脳症合併例の特徴
3.栄養療法
a.基本方針
b.エネルギー代謝異常に対する対策
c.蛋白・アミノ酸代謝異常に対する対策
4.腹水治療のストラテジー
a.塩分制限
b.腹水患者の栄養投与量
5.肝性脳症治療のストラテジー
a.誘因の除去
b.栄養管理
c.亜鉛(Zn)の補充
6.入院管理を考慮すべき病態
4 神経難病患者への対応
1.嚥下障害を生じる病態について
2.嚥下障害に対する食事の工夫
3.栄養量が問題となる場合
4.栄養内容が問題となる場合
5.ステロイド治療に伴い栄養管理が必要な場合
6.経管栄養への移行時期
7.パーキンソン病およびパーキンソン症候群
8.筋萎縮性側索硬化症(ALS),筋ジストロフィー
III 栄養にまつわる倫理的な問題と考え方
1.生命倫理の4原則
2.臨床倫理のアプローチ
3.本事例の倫理カンファランス
Tips 5 訪問栄養指導の算定
Tips 6 訪問栄養指導:様々な試み
その1 地域の栄養食支援構築の夢に向けて
その2 地域栄養ケアPEACH厚木
その3 亀田総合病院での在宅栄養管理サービス