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カテゴリー: 循環器学  |  感染症学

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新型コロナウイルス感染症と血管内皮

循環器予防医学の視点から探る重症化予防策のヒント

1版

北里大学医療衛生学部/北里大学大学院医療系研究科 教授
東條美奈子 著

定価

2,200(本体 2,000円 +税10%)


  • A5判  116頁
  • 2020年12月 発行
  • ISBN 978-4-525-24981-6

今,提唱される新たな概念!
全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME)が鍵を握る?!

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では,基礎疾患を有する患者の死亡率が高いことが報告されており,高齢者や喫煙者では重症化しやすいことも明らかになっている.本書では,循環器予防医学の視点からCOVID-19の病態生理について解説し,重症化の予防や診断・治療に関して新たな戦略となりうる概念をまとめた.

  • 序文
  • 目次
  • 書評1
  • 書評2
序文
 2019年末に中国の武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは,私たちの生活を根本的に変えてしまった.今後も続いていくであろう「new-normal with corona(コロナと共存する新しい生活様式)」の時代をわれわれが生き抜いていくためには,これまでの先人の多くの叡智を集約し,より高次の視点から本感染症の病態を深く理解し,コロナ禍においてより鮮明化した医療を含めた社会的な問題点を一つひとつ改善していくことが必要である.本書籍では,COVID-19の病態生理において鍵を握ると考えられる「全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME,サーミー)」に関してこれまでに得られている知見をまとめ,この疾患概念がCOVID-19重症化予防や診断・治療の新たな戦略となる可能性について論じる.
 高血圧,糖尿病,肥満,循環器疾患などの基礎疾患をもつ患者群において,COVID-19による死亡率が高いことが報告されている.また,高齢者や喫煙者ではCOVID-19が重症化しやすいことも明らかになっている.これらの危険因子はいずれも血管内皮機能を低下させることが知られており,循環器病予防における重要なターゲットである.一方で,全身をめぐる血管の内皮細胞を覆う血管内皮グリコカリックスは,これらの危険因子によって障害される.さらにCOVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は,ヒトの肺胞上皮や小腸だけでなく,血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に豊富に発現するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合することから,COVID-19を悪化させるメカニズムに血管内皮グリコカリックスが重要な働きを担っている可能性が示唆される.血管内皮グリコカリックスが障害されると,血管内皮細胞同士の接着が緩み,血漿成分の微小血管外への漏出を引き起こし,肺においては重度の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす.また,COVID-19の重症化によって引き起こされることが報告されている播種性血管内凝固症候群(DIC),川崎病ショック症候群,敗血症などの病態においては,可溶性血管内皮グリコカリックスの血中濃度が異常高値となることが多数報告されており,より高値の症例においては,全身性血栓塞栓症や多臓器不全を引き起こしやすいことが知られている.
 このように循環器病予防のための取り組みや疾病管理対策は,COVID-19重症化予防やパンデミック時の医療体制堅持などの観点からも非常に重要であることが明らかになりつつある.将来を見据えた,より広義での循環器病予防活動は,今後のCOVID-19重症化予防策としても有効な武器になりうるものと期待している.

2020年11月
北里大学医療衛生学部/北里大学大学院医療系研究科 教授
東條美奈子
目次
略語一覧

Chapter 1 COVID-19の特徴と重症化に伴う合併症
・COVID-19パンデミック
・COVID-19パンデミックによる非感染性疾患への影響
・COVID-19の特徴
・回復しても侮れないCOVID-19による心臓後遺症
・COVID-19回復後も継続する味覚・嗅覚障害,聴覚異常
・COVID-19が重症化しやすい人の特徴
・重症化COVID-19の特徴
・SARS-CoV-2の特徴
・COVID-19の重篤な合併症

Chapter 2 血管内皮グリコカリックスの役割と血管内皮機能
・血管内皮グリコカリックス
・血管内皮グリコカリックスと細胞内シグナル伝達
・血管内皮グリコカリックス障害
・生体内血管内皮グリコカリックス評価
・血管内皮グリコカリックス脆弱化領域測定に影響を与える薬剤
・血管内皮機能評価と血管内皮グリコカリックス関連評価
・血管内皮機能と血管内皮グリコカリックス障害
・血管内皮グリコカリックスと循環器関連疾患との関係

Chapter 3 COVID-19による全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME)
・血管内皮グリコカリックス障害とCOVID-19易感染性
・ウイルス感染症と血管内皮グリコカリックス
・全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME)の定義
・重度の炎症が誘発する血管内皮機能障害
・血管内皮グリコカリックス障害と不整脈・突然死
・川崎病ショック症候群と血管内皮グリコカリックス
・血管内皮グリコカリックス障害によって引き起こされる重篤なCOVID-19合併症
  ① 敗血症性ショック
  ② 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
  ③ DIC,微小血管塞栓症
  ④ 多臓器不全
・血管内皮グリコカリックス障害とCOVID-19重症化の性差について
・血管内皮グリコカリックス障害とCOVID-19重症化の人種差について
・まとめ
  ① 基礎疾患としての循環器疾患とCOVID-19易感染性
  ② COVID-19を重症化させる危険因子
  ③ 血管内皮グリコカリックス障害によるCOVID-19の重篤な合併症

Chapter 4 SIRMEの重症度を反映するバイオマーカーの候補
・血管内皮グリコカリックス
・断片化肺上皮グリコカリックス
・トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体(TAT)
・トロンボモジュリン添加トロンビン生成試験(TGA-TM)
・ペントラキシン3(PTX3)

Chapter 5  SIRMEの発症メカニズムを考慮したCOVID-19治療
・血管内皮グリコカリックス保護に関連するCOVID-19治療の試み
・血管内皮保護作用が期待できるCOVID-19治療標的候補とその特徴
  ① ADAM17
  ② グリコカリックス投与
  ③ グリコカリックス切断酵素阻害薬
  ④ 抗炎症メディエータ
  ⑤ 新鮮凍結血漿とアルブミン
  ⑥ 幹細胞治療
  ⑦ イベルメクチン
  ⑧ アンチトロンビンⅢ
  ⑨ 直接経口抗凝固薬(DOAC)
  ⑩ 遺伝子組換えヒトトロンボモジュリン
  ⑪ セボフルラン
  ⑫ 静脈内免疫グロブリン補充療法(IVIG)
  ⑬ トラネキサム酸
  ⑭ 血糖降下薬

Chapter 6 COVID-19重症化予防策のヒント
・レジストリ研究の実施
・まずは禁煙!
・高気圧酸素療法
・ビタミンC大量静注療法
・新鮮濃厚赤血球輸血・エリスロポエチン投与
・肥満と運動療法の注意点
・ライフスタイルの変化
・在宅運動療法と早期理学療法
・療養患者と高齢者の保護対策
・マスクの着用
・うがいにポビドンヨードは必要か?
・接触確認アプリの活用

Chapter 7 ダイヤモンド・プリンセス乗員対応の記録
・未知のウイルスに対する恐怖
・感染防止のための工夫
・感染患者さんとのコミュニケーションの工夫
・COVID-19重症化に備えたリスク管理
・感謝のことば
・コロナ病棟の診療に従事して考えたこと
・今後の展望

引用文献
あとがき
索 引
書評1
心リハはコロナを救う

安達 仁(群馬県立心臓血管センター 副院長)

 心リハはコロナを救う,というのが本書を手に取ってただちに感じ始めた感想である.もちろん,コロナウイルスを救ってあげるのではなく,コロナウイルスから命を救うという意味である.COVID-19ウイルスはグリコカリックスが減少した血管内皮部分から侵入し,同時にグリコカリックスが失われた血管内皮が血栓を誘発して患者の命を奪う.そしてグリコカリックスを減少させるのは生活習慣のゆがみである.喫煙,糖尿病,肥満,塩分過剰摂取,運動不足,これらがグリコカリックスを減少させる主要な因子であり,これらをコントロールできればCOVID-19 ウイルス感染と重症化は防げるのである.とすると,これはもう心リハスタッフ出でずんば蒼生を如何せんであろう.心リハスタッフが禁煙指導を行い,減塩を遵守させ,内臓脂肪を減らして適度に運動を行わせれば,COVID-19感染は遠のく.多くの施設で外来心リハが中止になっているが,電話・メール・インターネットを駆使して,家に引きこもって炎症と過酸化物を増やし,血管壁のシアストレスを減らしまくっているCOVID-19感染症候補者たちに無理やりコンタクトをとって感染から救ってあげるのが心リハスタッフの任務であり義務である.著者が提唱しているSIRME(サーミー:全身性炎症反応性微小血管内皮症)に患者が陥る前に救わなければならない.この書評が世に出るときは,コロナウイルス感染症の蔓延状況がどうなっているのか想像もつかないが,いますぐ行動に移そう.でも,その前にこの本を読もう.グリコカリックスとSIRMEを理解すれば同じ気持ちになるはずである.心リハはコロナを救う.そしてこの本は日本を救う.
書評2
全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME,サーミー)とは?

厚田 幸一郎(北里大学 薬学部 教授/北里大学病院 薬剤部長)

 中国・武漢にて発生した新型コロナウイルス感染症(COVID―19)は,いまだ収束することなく,全世界を恐怖に陥れている.COVID―19に関する著書は枚挙に暇がないが,本書が循環器予防医学の視点から,さらに長年にわたる著者の血管内皮に関する基礎研究に従事した知見から,COVID―19の重症化予防策について論じたことに意義深さを感じる.
 血管内皮,特にグリコカリックス(血管内皮を覆う極めて薄い多糖類や糖タンパクからなる層)の障害がCOVID―19の重症化に起因していると推察するとともに,COVID―19重症化の病態生理を「全身性炎症反応性微小血管内皮症(SIRME,サーミー)」と名づけ,これまでに得られている知見から,このSIRMEという疾患概念がCOVID―19重症化予防や診断・治療の新たな戦略となる可能性についてわかりやすく論じている.
 著者が本書を執筆する原動力となったものは,おそらく,10年前の新型インフルエンザパンデミックの経験と,北里大学東病院でダイヤモンド・プリンセス号乗務員の新型コロナウイルス陽性患者受け入れの責任者として診療実務を担当したことにあるに違いない.
 著者は今後も続いていくであろう「new-normalwith corona(コロナと共存する新しい生活様式)」の時代を生き抜いていくためには,より高次の視点から本感染症の病態を深く理解し,コロナ禍における医療を含めた社会的な問題を改善していくべきと訴えている.
 本書は研究者のみならず,臨床現場に従事する医療スタッフがCOVID―19重症化の病態生理および予防・治療法について学ぶに最適な書籍である.
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