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誤嚥性肺炎の主治医力

1版

飯塚病院 呼吸器内科 飛野和則 監修
飯塚病院 呼吸器内科 吉松由貴 著

定価

3,520(本体 3,200円 +税10%)


  • A5判  269頁
  • 2021年5月 発行
  • ISBN 978-4-525-24961-8

誤嚥性肺炎の診療、いっしょに学びませんか?

卒後10年目の呼吸器内科医が綴る,誤嚥性肺炎診療の実践書.
誤嚥性肺炎は治りづらく,再発しやすい,よくわからないなど,難しい印象を持たれがちです.本書は筆者がこれまで学習をし,工夫・実践してきた誤嚥性肺炎の診療を余すところなく,書き綴っています.15名のエキスパートへのインタビュー,診療にも役立ち読み物としても面白いコラム,現場の医療者からの一言のコーナーなど,様々な角度から誤嚥性肺炎の診療が学べます.
誤嚥性肺炎の診療で悩んでいる方には,隣で一緒に考えてくれる,そして誤嚥性肺炎診療のやりがいを感じられるようになる,そんな書籍です.

患者さん説明用資料(A4横印刷 推奨)

  • 監修の序
  • 序文
  • 目次
  • 書評
監修の序
 本書は,筆者である吉松医師の「旅の記録」です.

 筆者は常日頃,とても多くの患者さんの診療にあたっています.
 そして臨床の中で悩みやアイデアが溜まると,国内外を問わず多くの人々に会いに行き,対話を通じて診療技術を磨き上げてきました.
 その成果はすでに,ケースレポートや研究論文として数多く発表されています.

 本書には非常に幅広い分野のエキスパートが数多く登場しますが,全て筆者が直接対話してきた方々です.誤嚥性肺炎に興味がある方であれば,一度は直接話をしてみたい,そんなラインナップです.
 読み進めていく事で,筆者の旅の追体験をしながら,誤嚥性肺炎についての知識を深めることができるでしょう.また,単なる読み物だけに留まらず,日常臨床で使用できるように多くの付録もついています.是非日常診療にご活用ください.

 近年誤嚥性肺炎の注目度が高まり同様の書籍が多く出版されていますが,私の知る限り同じような書籍はありません.

 多くの皆様のお手元に届きますように.

2021年3月
飛野和則
序文
 皆さまはこの本を,どのような思いで手に取られたのでしょうか.誤嚥性肺炎の診療に,悩みを抱えておられるかもしれません.あるいは,やりがいをもてずにいるかもしれません.誤嚥性肺炎はなかなか治らない,再発しやすい,よくわからない……あまり良くない印象をもっている方も多いように思います.
 私はというと,誤嚥性肺炎の患者さんを初めて受けもったとき,任されたものの大きさに,身の引き締まる思いでした.誤嚥性肺炎の抗菌薬治療以外の部分は,まだガイドラインにうまく表現されていません.だからこそ,立場や専門性によらず,観察力と思慮に長けた者こそが質の高い診療を行えるのです.患者さんは,実に多くのことを教えてくれています.主治医が患者さんの元へいかに足しげく通い,患者さんが出すサインに気づき,本人の生き方に添う医療を一緒に考えられるか.ご家族と良い関係を築き,他職種と連携できるか.これが誤嚥性肺炎の診療であり,主治医の役割なのです.知っているだけで疾患のとらえ方が変わり,少しの工夫で,大きな違いをもたらすことができる知恵にあふれています.何ができるかと考えるほど,そして関係する人たちと協力しあうほど,良い診療につながります.まさに,主治医力が求められています.
 なぜそんなに誤嚥性肺炎の診療が好きなのかと,よく聞かれます.答えはいたって簡単です.食べることが大好きなのです.自他ともに認める食いしん坊です.食べることを通じて広がる会話や,共有する思い,わかちあう笑顔.食べることは,人として生きていく上で,計り知れない意味合いをもちます.誤嚥性肺炎になると,これが一気に奪われてしまうことがあります.それも,工夫をすれば食べられるかもしれない場合でも,念のため絶食や制限食となっていることもあります.誤嚥は気がかりですが,食べる楽しみを奪ってしまうことは,もっと恐ろしいことかもしれません.この天秤をとことん考え,患者さんが願う道をともに歩むことこそ,主治医力の問われるところと感じています.
 私自身,主治医としてまだまだ修行の道半ばです.多くの患者さんやご家族,各科の先生や他職種の方々に毎日たくさんのことを教わり,支えられています.教わったことを独り占めするより,もっと多くの方々と共有させていただきたいと思っていたところ,こうして一冊の本にまとめる機会に恵まれました.時期尚早ではありますが,いただいたご恩を分かち合えればと,執筆をお受けすることとしました.私が特にお世話になっている,多方面の専門家のお声を直接お届けする「達人に聞く」や「現場の声」から,ぜひお読みください.
 ところで皆さまは,aspirationという言葉の意味をご存じでしょうか.誤嚥性肺炎を意味するaspiration pneumoniaや,穿刺吸引細胞診などでなじみがあり,誤嚥や吸引といった負の印象があるのではと思います.実はもともとは,「大切にしている熱望」という意味の,私の好きな言葉の一つです.
 誤嚥性肺炎の患者さんが,一人でも多く,安心して自分らしく過ごせるように.誤嚥性肺炎に悩む先生方が,一人でも多く,主治医としてやりがいを感じられるように.私の大切な願いを込めて,この本を書かせていただきました.
 幼少期,持病のため食べたいものを食べられず,悔しくてたまらないことや,息苦しい思いをすることもたびたびありました.そんなときいつも両親が,食べられるものを工夫して作り,お友達と一緒に過ごせるように考え,呼吸が楽になるまでずっと背中をさすって絵本を読み聞かせてくれました.転勤族だった私たち家族にとって,どこの地でも良い主治医に巡り合えたことが,大きな安心につながりました.おかげでたくましく育ち,当時から目標であった医師として駆け回る今,気づけば誤嚥性肺炎の診療にたどり着いていたことは,不思議ではありません.
 そういえば小学生の頃,よくこう言っていたのを,先日ふと思い出しました.「月火水曜日はお医者さん,木金は本を書いて,土日はレストランをする」.欲張り娘の夢がこうして叶うに至るまで,私を育ててくださったすべての職種の方々,いつも導いてくださる飛野先生,私の真意を描き表してくれる幼なじみのイラストレーターYurika Hirano,そして南山堂の佃さんと古賀さんに,心より御礼申し上げます.

2021年3月
吉松由貴
目次
第1章 誤嚥性肺炎とは
 1 なぜ今,誤嚥性肺炎なのか
 2 誤解されやすい,誤嚥性肺炎
 3 誤嚥性肺炎とは結局のところ,何なのか
 達人に聞く 第1回 誤嚥性肺炎の概念(寺本信嗣 先生)
 ちょっと、ひと工夫 どこからきた? 誤嚥性肺炎の負のイメージ
第2章 診 断
 1 診断の考えかた:3つのステップ
 2 誤嚥性肺炎の診断基準
 3 嚥下性肺疾患の分類と診断基準
 4 誤嚥性肺炎の症状
  現場の声 誤嚥性肺炎の身体所見のポイント 呼吸器内科医 喜舎場朝雄 先生(沖縄県立中部病院)
 5 誤嚥性肺炎の身体所見
 6 誤嚥性肺炎の検査
 7 誤嚥性肺炎の画像所見
 8 誤嚥性肺炎と間違えやすい呼吸器疾患
 9 誤嚥性肺炎と間違えやすい発熱性疾患
 10 誤嚥の原因への追究
 11 肺炎の原因への追究
 12 肺炎を契機に,見つかる疾患の実態
 13 誤嚥の原因を追究するアルゴリズムの必要性
 達人に聞く 第2回 誤嚥性肺炎の画像診断(飛野和則 先生)
 ちょっと、ひと工夫 誤嚥性肺炎を区別する意味
第3章 原 因
 1 脳血管障害
 2 神経筋疾患
 3 認知症
 4 サルコペニア
  現場の声 サルコペニアと嚥下障害 リハビリテーション医 國枝顕二郎 先生(岐阜大学)
 5 頭頸部腫瘍
 6 胃食道逆流症
 7 呼吸器疾患
  現場の声 息切れが強い患者さんの,食事の工夫 慢性呼吸器疾患看護認定看護師 長嶋ひとみさん(飯塚病院)
 8 医原性(薬剤性以外)
 9 薬剤性
 達人に聞く 第3回 神経疾患の診かた(谷口 洋 先生)
 達人に聞く 第4回 誤嚥性肺炎の臨床と研究(越久仁敬 先生)
 ちょっと、ひと工夫 緩和ケアの母に学ぶ“よい主治医とは”
 ちょっと、ひと工夫 感染症流行期の診療
第4章 治 療
 1 治療の考えかた
 2 抗菌薬
 3 気道浄化(排痰)
  現場の声 痰吸引の考えかた 慢性呼吸器疾患看護認定看護師 長嶋ひとみさん(飯塚病院)
  現場の声 理学療法士が,主治医に望むこと 理学療法士 奥野将太さん(飯塚病院)
 4 「治療をしない選択肢」の意味すること
 達人に聞く 第5回 肺炎を治療しない選択肢(朝野和典 先生)
 ちょっと、ひと工夫 肺炎を再び,「老人の敵」にしないために
第5章 栄養,食事
 1 栄養管理の重要性
 2 リハビリテーション栄養
 3 栄養状態の評価
 4 必要栄養量
 5 経口摂取 / 栄養管理の戦略
 6 使えるなら腸を使え(If the gut works, use it!)
 7 経管栄養
 8 経鼻胃管の取り扱い
 9 間欠的食道栄養法(IOE法)
 10 胃ろう
 11 中心静脈栄養(TPN)
 12 嚥下調整食
 13 食事介助の方法
 14 とろみ水
 15 観察による食形態判定のための手引き
 16 誤嚥性肺炎の患者さんにリスクのある食べ物
 17 食事の観察と段階的アップ
 18 発熱時の対応
  現場の声 管理栄養士の視点 栄養部(飯塚病院)
  現場の声 高齢者に伝えている,食事の工夫 言語聴覚士 Lizzie(スウェーデン),Jana(スイス),Maja(オランダ)
 19 窒息対策
 達人に聞く 第6回 誤嚥性肺炎の栄養指導(Alicia Costa 先生)
 ちょっと、ひと工夫 24時間とろみチャレンジ
 ちょっと、ひと工夫 好きなものは誤嚥しない?
第6章 嚥下評価
 1 嚥下評価は難しい? 怖い?
 2 嚥下評価を行える状態作りから
 3 嚥下にまつわる問診,質問紙票
 4 誰にでもできる診察,嚥下評価
 5 機器を用いた詳しい評価
  現場の声 嚥下専門の耳鼻咽喉科医からみた,経鼻内視鏡の有用性 耳鼻咽喉科医 Mukundan Subramanian 先生(インド)
  現場の声 嚥下障害の最先端 言語聴覚士 稲本陽子 教授(藤田医科大学保健衛生学部)
 達人に聞く 第7回 STとの連携(岩田綾由美 さん)
第7章 訓 練
 1 原 則
 2 いつ,誰がする?
 3 SMARTな目標設定
 4 嚥下訓練の種類
  現場の声 自宅で日常的にできる訓練 言語聴覚士 Tina(スロベニア),Lucilla(イタリア),Jana(スイス)
  現場の声 ST の視点 言語聴覚士 井上浩子さん(飯塚病院)
 5 気管切開孔がある場合の嚥下評価と訓練
 達人に聞く 第8回 リハビリテーションの考え方(相良亜木子 先生)
 ちょっと、ひと工夫 生活を訓練に変えよう
 ちょっと、ひと工夫 涅槃像に学ぶ,完全側臥位法
第8章 予 防
 1 原疾患の治療
 2 口腔ケア
  現場の声 非専門家でもできる口腔内の評価と肺炎予防 歯科衛生士 河野真由美さん(飯塚病院)
 3 義歯の扱い方
 4 装具の作成
 5 薬剤による予防
 6 誤嚥を予防する手術
 7 慢性疾患の視点で,アクションプランを活用
 達人に聞く 第9回 口腔の診かたとケア(梅本丈二 先生)
 達人に聞く 第10回 服薬の難しさと工夫(倉田なおみ 先生)
 達人に聞く 第11回 耳鼻咽喉科の視点(金沢英哲 先生)
第9章 面談,意思決定支援
 1 面談の工夫
 2 段階的な誤嚥性肺炎の面談
  現場の声 理想の食事ってなんだろう 家庭医 木安貴大先生(飯塚病院/頴田病院)
 3 面談に活用できる便利品
 4 意思決定支援
  現場の声 家族のケアと関わりについて 久保のどかさん(淀川キリスト教病院医事部)
 達人に聞く 第12回 倫理的な気づきと意思決定支援(藤島一郎 先生)
 達人に聞く 第13回 緩和ケアからみた食のケア(池永昌之 先生)
第10章 チーム医療,地域連携
 1 誤嚥性肺炎に欠かせないチーム医療
 2 カルテ記載
 3 カンファレンス
 4 回 診
 5 KTバランスチャートの活用
 6 勉強会の開催
 7 地域連携
  現場の声 回復期・慢性期の医師から急性期の医師へのメッセージ 心療内科医 大武陽一 先生(伊丹せいふう病院)
  現場の声 誤嚥性肺炎の患者さんの退院に向けて,気をつけたいこと ソーシャルワーカー 桂木瞳さん(飯塚病院)
 達人に聞く 第14回 認定看護師の視点(内田明子さん)
 達人に聞く 第15回 日本の診療を良くするために(Pere Clave 先生)
 ちょっと、ひと工夫 誤嚥性肺炎をもっと学んでみたくなったら

索 引  

誤嚥性肺炎の便利帖
 付録1 誤嚥性肺炎の患者さんの主治医になったら:診療の流れ
 付録2 診療の場に応じた誤嚥性肺炎の診療
 付録3 誤嚥性肺炎の原因チェックリスト
 付録4 誤嚥性肺炎の原因
 付録5 誤嚥性肺炎の原因になる薬剤
 付録6 食事場面の見どころと対策
 付録7 食事に関する病歴聴取のポイント
 付録8 診察のポイント
 付録9-1 EAT-10
 付録9-2 聖隷式嚥下質問紙
 付録10 嚥下のスクリーニング法
 付録11 非経口の栄養療法
 付録12 面談のポイント
 付録13 摂食嚥下機能評価フローチャート
 付録14 「誤嚥性肺炎」と診断されたかたへ
書評
コモンだからこそ,読むべき一冊

志水太郎(獨協医科大学 総合診療医学・総合診療科)

 よく全国の教育病院に教育回診でお招きいただくことがあります.そんなとき,誤嚥性肺炎の患者はほぼ間違いなく入院されていることを拝見します.誤嚥性肺炎はコモンな病気です.しかし,コモンだから簡単というわけではないということを,この書籍は教えてくれます.著者の吉松先生は学生時代から人一倍熱心で,数多い関西の後輩たちのなかでもひと際印象に残っています.アクティビティも高く,麻生飯塚病院の呼吸器内科でがんばられていることは存じ上げていましたが,臨床だけでなく嚥下のmaster’s degree(あるんですね!)のようなアカデミアに裏打ちされた,嚥下障害のスペシャリストのバックグラウンドもおもちということが本書の説得力を増しています.本書の魅力は,誤嚥性肺炎のクラスター(表現系の近い疾患)の解説(第2章)や誤嚥性肺炎の原因疾患(第3章)といった診断学的視点はもちろんのこと,集学的な視点が必要とされる多彩かつ多面的な治療・マネジメントの知見も豊富(第4 章)であり,急性期だけではない食事・栄養・嚥下評価・訓練(第5〜8章)の重要性にも多くのページが割かれ,さらに地域包括ケアを見据えた倫理・意思決定や地域連携のトピック(第9,10 章)も補完するという包括的な構成となっています.また,「現場の声」や「ちょっとひと工夫」といった現場のベッドサイドの知恵のコーナーもそれぞれが応用の効くTipsの数々の紹介であり,実践的な内容です.さらに,多くの職種や医療者がかかわる本疾患だけあって,本書の裏の目玉でもある達人に聞くの15回シリーズの存在が本書の内容を分厚くしています.奥深い内容です.「誤嚥性肺炎で1 冊本を買うのはtoomuch」ではなく,むしろ,ぜひ一度「コモンだからこそ」足元を固めるためにも,皆様にお読みいただきたい1 冊です.結局,臨床はこういった重要疾患・コモン疾患のケアで質の差が生まれるのではないかと感じます.
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