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カテゴリー: 循環器学

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多職種カンファレンスで考える 心不全緩和ケア

1版

国立循環器病研究センター 心臓血管内科 医長 菅野康夫 監修
国立循環器病研究センター 心臓血管内科 部長 安斉俊久 監修

定価

3,850(本体 3,500円 +税10%)


  • B5判  228頁
  • 2017年4月 発行
  • ISBN 978-4-525-24591-7

心不全患者の緩和ケアに,近年注目が集まっている.一進一退する病状のなかで,適切な治療・支援を行うには,多職種連携による対応が重要となる.本書では,さまざまな課題を抱えた心不全症例を提示し,多職種によるチームアプローチを具体的に解説した.現場目線で心不全の緩和ケアをひも解く,即実践で活用できる画期的な一冊!

  • 序文
  • 目次
  • 書評
序文
 「チーム医療」という言葉が,医療の根本的な在り方をあらわすキーワードとして重要視されている.近年,医学の知識は指数関数的に増加しており,それに伴い医療体系は少し前の時代と比べ物にならないほど高度化,専門化,複雑化している.患者のニーズも多様化しており,一人の医師が必死に努力しても最善の医療実現にはほど遠い.
 医療現場では医師,看護師,薬剤師,理学療法士,栄養士,医療ソーシャルワーカーなどさまざまな職種が従事している.それぞれが高度な知識と技術を持った専門職であり,患者へ質の高い医療を提供するために自らの専門性を発揮しようと努めている.「チーム医療」は「多職種連携」と言い換えることができるが,リアルな臨床の場では,各職種それぞれの技量よりも,個々の職能を連携しながら十分に生かせる環境の方が重要である.実際,連携が乏しいために各職種が提供し得る最善の医療を患者に実践できないことをしばしば耳にする.
 本書は,多職種連携が殊更に必要と考えられる,心不全緩和ケアの領域に焦点をあて,多職種カンファレンスを通していかにチーム医療を実践するかの手引きである.第1章では総論として,心不全緩和ケアの一般的な注意点,特に各職種がどのような役割を持って患者に臨むか,また心不全の緩和ケアでいかなる問題に直面し対応するかを概説した.第2章では,心不全治療の過程でしばしば遭遇する問題点について,どのように多職種カンファレンスを展開し,問題解決にむけて各職種が協力していくかを,具体的な事例を挙げながら対応策を提示した.
 本書の執筆は,2013年より活動している国立循環器病研究センター緩和ケアチームのメンバーによりなされている.当センターは循環器疾患の克服を使命とし,難治性重症心不全に対して積極的治療を展開することを基本骨格とする.一方,積極的治療には患者や家族の「苦痛」を強いる場合も少なくなく,当センター緩和ケアチームは,積極的治療の基本骨格を維持しながら最善の苦痛緩和を提供することを目的に結成された.積極的治療と苦痛緩和という,一見親和性の低い2つの医療行為を同居させることは想像以上に難しく,多職種で試行錯誤し,悩みながら意見を交わし合った.本書,特に第2章の多職種カンファレンスの各項は,そうした多職種の試行錯誤の過程を綴ったものであり,多くの症例を通してチームが学んだことをありのまま記載している.
 最後に,本書ならびに当センター緩和ケアチームの活動に関わったすべての方々のご理解とご協力に深い感謝を申し上げるとともに,本書が心不全診療を実践する医療従事者にとって有益な情報源になることを祈っている.

2017年3月
菅野康夫
目次
第1章 心不全緩和ケアの実践
■心不全緩和ケアとチーム医療
1 心不全緩和ケアとチーム医療
2 依頼から実践の流れ
3 職種間の連携

■心不全緩和ケアチームにおける各職種の役割
1 医師の役割
2 看護師の役割
3 薬剤師の役割
4 リハビリテーション職種の役割
5 管理栄養士の役割
6 心理療法士の役割
7 医療ソーシャルワーカーの役割

■心不全で出現する諸問題への対応
1 呼吸困難
2 食欲不振・消化器症状
3 倦怠感
4 疼 痛
5 不 安
6 抑うつ
7 意思決定支援
8 家族ケア・グリーフケア
9 スピリチュアルケア
10 終末期の苦痛
11 社会的苦痛
12 倫理的問題

第2章  チームアプローチで行う心不全緩和ケア
■苦痛に対するマネジメント
1 呼吸困難
 ・患者・家族の要望に応じた対応ができるよう心掛ける
 ・呼吸困難への対応に関する方針は早めに決定しておく
2 食欲不振
 ・食欲不振の原因へのアプローチと,適切な食事対応を併行して行う
3 倦怠感
 ・倦怠感を評価する
 ・倦怠感を緩和する
4 疼痛
 ・疼痛の詳細を把握する
 ・腎機能,肝機能に合わせた投与量を設定する
5 不安
 ・不安・恐怖の要素を細かく丁寧に分解し,多方面からアプローチする
 ・日常生活・身体疾患治療への影響を評価し,精神科・心療内科へのコンサルテーションを検討する
6 抑うつ
 ・抑うつには3つの原因がある
7 せん妄
 ・せん妄スクリーニングツールを用いて評価する
 ・せん妄の対応は多方面からアプローチする
8 自殺企図
 ・希死念慮や自殺企図の言動に驚かない
9 意思決定支援
 ・意思決定支援に耐えられる心身の状況かを判断する
 ・医療者,患者・家族と患者の意向や望む療養生活・医療について話し合うプロセスを重視する
 ・希望を保証しながら現実的に考えられるように話し合いを持つ
 ・意思決定後は,心的負担の緩和に努める
10 家族ケア・グリーフケア
 ・本人の“気がかり”を再優先に解決し,現状を適切に見極められるようにする
 ・家族ケアの対象は患者と家族であり,家族ケアがグリーフケアにつながる
11 終末期の苦痛
 ・治療抵抗性であること,終末期であることをもう一度確認する
 ・苦痛緩和とコミュニケーション維持のバランスをとる
 ・本人と家族の意向を尊重する
 ・呼吸抑制,血圧低下に注意する
12 フレイル
 ・フレイルサイクルの悪循環から脱却するためには多職種の連携が必要である
13 社会的苦痛
 ・原因が明確でなかった食欲不振について多方面からアプローチする
 ・本人・家族の望む在宅生活実現に向けて院内外の多職種連携を図る

■特別な臨床背景
14 カテコラミン離脱困難
 ・カテコラミンを減量・中止できる方策はないか再確認する
 ・終末期に過ごしたい療養場所を見据えて,何ができるかを話し合う
 ・心理的ケアも重要である
15 難治性不整脈
 ・患者と家族の意思を確認し,多くの医療者でさまざまな選択肢を議論する
16 肺高血圧症
 ・肺高血圧症の症状を知る
 ・呼吸困難に対して,緩和的鎮静の適応を判断する
17 成人先天性心疾患
 ・遠隔期の合併症と加齢に伴う合併症の管理が必要である
 ・成人先天性心疾患患者の特性を理解し,意思決定の方法を確認する
 ・患者・家族の意向に沿うための現実的な問題を共有する
 ・母親のグリーフを知り,予期悲嘆を傾聴し,寄り添うことで母親のレジリエンスを高める
18 メカニカルサポート
 ・植込型補助人工心臓の適応を知る
 ・補助人工心臓装着患者における,装着前から装着後に至るチーム医療の在り方を知る
19 移植待機
 ・心臓移植待機の現状,LVADの合併症を知る
 ・待機期間中も,トータルペインを支持する緩和ケアを行う
20 ICD停止の判断
 ・末期心不全の病期の段階において,ICD除細動機能の中止について多職種チームで検討する
 ・適切な情報を提供し,共同意思決定支援を前提とした関わりを持つ
21 CHDF導入の判断
 ・CHDF導入適応に関して,多職種で検討できる場を設ける
 ・CHDF非導入を決定した後もサポートする

■薬剤の使用法
22 オピオイド
 ・モルヒネは,心不全終末期の呼吸困難に対する症状緩和に有効である
 ・モルヒネ使用で出現する消化器症状に対して,あらかじめ対策を立てておく
 ・モルヒネは患者本人・家族へ同意をとってから開始する
23 睡眠導入薬
 ・高齢者の場合はまず睡眠リズムを確認する
24 鎮痛薬
 ・患者の状態に合わせた薬剤選択と投与量調整を行う
 ・副作用予防が必要だが,副作用予防薬による副作用にも注意する
 ・麻薬の知識を共有する
25 抗うつ薬
 ・抑うつの原因・対応策を立案し,多方面からアプローチする
 ・薬剤の特性を知り,最適なものを選択する
26 抗不安薬
 ・不安の原因・程度を評価し,多職種で心理療法的介入を実施する
 ・各薬剤の特徴を把握し,不安状況に合わせた薬剤を選択する
27 漢方薬
 ・治療抵抗性の症状緩和に漢方が効果的な場合がある
 ・漢方薬は空腹時投与が基本,白湯または水に溶いて服用する
 ・甘草含有の漢方薬は注意が必要である

Column
・院内勉強会
・緩和ケアリンクナース
・リハビリテーションの効果
・退院支援における病診連携の現状と課題
・啓発冊子
・抑うつ症状の原因探索と評価法の関係を整理する
・集中治療室における緩和ケア
・総合病院での心不全緩和ケア実践例
・Destination Therapy
・循環器緩和ケアにおけるマニュアル作成の重要性
書評
心不全緩和ケアを実践するにあたって手引きとなる書

佐藤幸人(尼崎総合医療センター循環器内科 科長)

 心不全の生存率はがんにも匹敵するほど悪いことが判明し,最期は耐え難い身体的・精神的苦痛が顕著となる症例も多い.しかし,緩和ケアのタイミングの判断がしばしば困難であることやエビデンスに乏しいことなどから,長らく具体的な記述が困難な領域となっていた.そこで2016年,日本心不全学会ガイドライン委員会は「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を発表し,その中の「終末期医療の指針」において,アドバンス・ケア・プランニングと緩和ケアについての提唱を行った.

 一方,心不全多職種チーム医療は日本では10年くらい前から取り組まれているが,欧米のスタイルを模倣しながら日本の社会背景に応じて独特な形に発展しつつある.慢性心不全認定看護師や緩和ケア認定看護師などの認定看護師を中心とした多職種チームも多くの施設で立ち上がってきているが,心不全多職種チーム医療のひとつとして,緩和ケアに焦点をあてることが2010年頃より数施設を中心に行われ始めている.

 本書はそのような社会的背景の中で,臨床現場から必然的に生まれた書である.心不全緩和ケアについて抽象的な概念にとどまらず,細部までこだわった具体的な記載が随所に認められる.特記すべきは,国立循環器病研究センターの実例について,詳細なチーム介入の経過が述べられていることである.患者向けの啓発パンフレットや薬剤マニュアル作成など,新しい試みも満載である.薬剤も詳細に使用法が記載されている.心臓移植,植え込み型左室補助循環を行う施設ならではの,倫理的問題についても触れられている.

 今後の課題であるが,心不全緩和ケアには社会的なコンセンサスも必要である.本書をはじめとする取り組みが社会に紹介され,国民全体で心不全緩和ケアを考える時代も遠いことではないと考える.
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