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カテゴリー: 感染症学

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医療機関における新型インフルエンザ等対策

ミニマム・エッセンシャルズ

1版

川崎市健康安全研究所 岡部信彦 監修
三重大学医学部付属病院 医療安全・感染管理部 田辺正樹 編集
国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 大曲貴夫 編集

定価

4,180(本体 3,800円 +税10%)


  • B5判  243頁
  • 2014年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-23191-0

鳥インフルエンザやMERSの患者報告が相次ぐ中,国は2009年パンデミックの経験を踏まえさまざまな対策を行っており,医療機関にも多くの対応を求めています.本書では一般の医療職者には難解な法律や制度を簡明に解説し,医療機関として取るべき対策を示しました.新型インフルエンザ患者が来院する可能性のある医療機関にとって必携の一冊です.

  • 監修の言葉
  • 序文
  • 目次
監修の言葉
 2003年に世界的に流行した重症急性呼吸器感染症Severe Acute Respiratory Syndrome(SARS)は,世界を震撼させた.そのプロローグとしては,1997年香港における鳥インフルエンザA(H5N1)の初めてのヒト感染の出現であった.18例中6例が死亡し,感染源が疑われた約10万羽のニワトリが殺処分されたもので,A(H5N1)がパンデミックを生じた場合の危惧が高まり,いわゆる新型インフルエンザ発生に関する関心が高まったといえる.SARSは当初はA(H5N1)ウイルス感染の流行の拡大が疑われたが,ほどなく新たなウイルスが病原体として同定されSARSコロナウイルスと命名された.いつ,だれが,どこで感染し,その予後は,どのようにして感染を防ぐか,診療は,行政の対策は,日常生活は…などわからないことだらけで不安が渦巻いたが,やがて皮がむけるように一つひとつわかってくることが増えてきた.この時の経験が,世界的にも,国内的にも,地域的にも不明疾患の早期検知,検査,サーベイランス,いろいろなセクターの協力,そして感染症に対するあらかじめの準備の重要さとして理解されるようになった.
 そして2009年,A(H1N1)pdm09によるパンデミックの発生となったが,わが国においては発生寸前には「行動計画」や「ガイドライン」が曲がりなりにも出来上がっていたことは,大変心強いものであった.少なくとも物差しになるものがあり,それに則って修正を加えていけばよいと思えた.しかし送り手はそれを十分に説明する時間がなかった.さらに受け手はそれを咀嚼する余裕はなかった.そしてそこにいろいろな食い違いも生まれた.さらにはパンデミックが進行するについて,変更すべきものがなかなか修正できないかと思えば,前触れなく突然に修正されてしまうものもあるなど,混乱を来したことも事実である.
 これまでのパンデミックについては,1918年発生のスペインインフルエンザの後に発刊された『流行性感冒』(内務省編),1957年発生のアジアインフルエンザの後に発刊された『アジアかぜ流行史』(日本公衆衛生協会編)などが記録として残されている.当時の不十分な状況の中,今でも感嘆する詳細な記録,あるいは,今であれば…と思われる記録など様々であったが,パンデミックをイメージし,「新型インフルエンザ対策行動計画」「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の策定にあたっては,多くの示唆を与えてくれた.私たちは,先達が残した記録のお蔭で,2009年のパンデミックに対しておそらくはスペインインフルエンザあるいはアジアインフルエンザの時代よりは良い対応・対策ができたであろう.しかし今回の対応・対策は到底十分なものではなく,思い出すのも身が縮む思いのことが多々ある.新たなパンデミック,あるいは不明感染症は必ずいつか生じる.これに対して2009年パンデミックの国内対応の記録として残されたものが「新型インフルエンザ(AH1N1)-我が国における対応と今後の課題-」(監修 宮村達男,編集 和田耕治,中央法規出版,2011.8.)である.
 そして今般は,次に生じ得るかもしれないパンデミックおよびその他の新たな感染症対策への備えの指標となることを目指して,本書「医療機関における新型インフルエンザ等対策 ミニマム・エッセンシャルズ」がまとめられた.感染症の診療・疫学・基礎研究・行政対応・国際情勢などに精通した方々に,「これまでの経験を踏まえて.これからに向けて」という視点でご執筆頂いたものである.
 医療はまさに目の前の患者に対して最善の治療に尽くすものであり,そこには個々の善意の判断と裁量が重要なキーとなることがしばしばであり,法律などによって決めごととしておくまでもないことも多い.一方,多くの人を対象に対応・予防を考えていくときにはどこかでマネジメントや調整役,そして全体を見渡す司令塔役を要することがある.ここが行政の役割かと思うが,行政が動くには決まりごとが必要となる.
 本書はそのタイトルからも主に臨床医・医療機関を対象としているが,疫学・行政対応を行う方々にも理解を頂きたい臨床の内容をまとめてある.両者の距離が少しでも縮まり,新たなインフルエンザ(いわゆる新型インフルエンザ)を含む新たな感染症が国内外での大きい流行として起こった時の混乱と被害を少しでも回避できる動きのヒントとなれば幸いである.
 本書は2014年5月時点での最新情報をもとにまとめられたものである.対策・準備に関して完璧なものはないが,今後新たな知見が加えられて,より良いものが将来できていくことを期待したい.しかし,最大の願いは本書で想定しているようなことは生じず,本書の出番などないことである.

2014年6月
岡部信彦
序文
 日本の新型インフルエンザ対策は,2013年4月に新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下,「特措法」)が制定されたことを受け,大きな転換期を迎えています.
 新型インフルエンザ対策に関わる読者の方の中には,2009年4月に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)への対応を経験されたことも多いと思います.その際,国の「行動計画」「ガイドライン」は出されておりましたが,鳥インフルエンザA(H5N1)を念頭に置いたものであったこと,「行動計画」「ガイドライン」が出されて間もない時期に発生したことなどの要因もあり,臨床現場においても,多くの混乱が生じました.
 医療従事者の多くは,法的事項や国の出すガイドライン等に精通しておらず,また,新型インフルエンザ対策は,危機管理の分野で平時にかかわることがないこともあり,行政文章を理解するのはなかなか難しいのが現状と推測されます.
 今回,「新型インフルエンザ・新感染症(以下,「新型インフルエンザ等」)」を対象とした新たな法律が制定され,また,新法に基づき新たに「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(以下,「政府行動計画」)「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(いか,「ガイドライン」)が策定されました.
 新型インフルエンザや新感染症がいつ発生するかは誰も予測はできませんが,2012年に中東では,新たなコロナウイルス感染症であるMERSが発生,また2013年4月に中国で鳥インフルエンザA(H7N9)の人への感染事例が多数報告されるなど,新型インフルエンザ等がいつ発生してもおかしくない状況にあります.
 これらの新たな感染症が万一,発生した場合,特措法,政府行動計画,ガイドラインに基づき,国をあげて対応が行われることになります.そのような事態に陥った場合でも,できるだけ混乱を生じずに対応できるよう,感染症対策・危機管理対策に従事する方を対象に,国の新たな方針,及び,新型インフルエンザ等の基本的事項について,とりまとめたのが本書になります.
 第1章は総論で,新型インフルエンザ対策の経緯や,政府行動計画・ガイドライン理解のための主なポイントについてまとめています.第2章は,新型インフルエンザ等診療のための基礎知識として,「インフルエンザについて」「サーベイランスについて」「抗インフルエンザウイルス薬について」「インフルエンザの重症患者の治療について」「ワクチン・予防接種体制について」さらに,「鳥インフルエンザ」「新興感染症」や「院内感染対策」について,まとめてあります.
 第3章は,医療機関において,新型インフルエンザ等対策を立案する際のポイントについて,まとめてあります.新型インフルエンザ等が発生した場合,医療機関においては,職員の欠勤等に伴い,「供給」が低下する一方,診療の「需要」は増加することが予測されます.このような需給バランスの中でも診療を継続していくためには,事前の計画(診療継続計画)が重要となります.第4章においては,医療機関の規模・機能別に「診療継続計画」の作成についてまとめてあります.2013年3月,医療機関を対象に特定接種の登録が行われたこともあり,各医療機関においては,厚生労働科学研究班や医療関連団体から出されたひな形を元に,急遽,これらの計画を作成したことと思われますが,本章を参考に,関係者が集まり,十分な議論を重ね,再度計画を立案・改定していただければ幸いです.
 第5章は,情報収集方法や,WHOの新たな新型インフルエンザガイダンスについてまとめてあります.
 2014年5月時点の最新情報をもとに,新型インフルエンザ等に関して,網羅的にまとめた書物となっております.本書が,新型インフルエンザ等対策に関わる方の対策立案の一助となれば,幸いです.

2014年5月
編 者
目次
第1章 新型インフルエンザ等対策(総論)
 1.新型インフルエンザ対策の経緯について
 2.新型インフルエンザ等対策の再構築について―新型インフルエンザ等対策特別措置法の制定― 
 3.政府行動計画・ガイドライン理解のための主なポイントについ

第2章 新型インフルエンザ等診療のための基礎知識
 1.インフルエンザについて
 2.新型インフルエンザ等の診断・サーベイランスについて
 3.インフルエンザの診療,抗インフルエンザウイルス薬について
 4.インフルエンザの重症患者の治療について
 5.インフルエンザワクチン―最近の動向―
 6.予防接種体制について
 7.鳥インフルエンザについて
 8.新興感染症―SARS,MERSコロナウイルス感染症―について
 9.新型インフルエンザ等の院内感染対策について

第3章 医療機関における新型インフルエンザ等対策について
 1.未発生期における準備の概要について
 2.新型インフルエンザ等発生時の基本方針の決定について
 3.新型インフルエンザ等対策の実施体制について
 4.新型インフルエンザ等対策業務・感染対策について
 5.重要業務継続のための具体的方策

第4章 医療機関規模・機能別,診療継続計画について
 1.地域における診療体制の構築について―地域医療継続計画の策定―
 2.診療所・中小規模の医療機関における対応について
 3.中規模・大規模医療機関における対応について
 4.帰国者・接触者外来を設置する医療機関および感染症指定医療機関における対応について

第5章 情報収集,その他
 1.情報収集方法について
 2.WHOの新たな新型インフルエンザガイダンスについて
 
   コラム1 日本のインフルエンザパンデミックの記録について
   コラム2 「発病率(罹患率)」「致命率」「死亡率」について
   コラム3 法律・政令・省令・通知について
   コラム4 特措法と感染症法との関係について
   コラム5 「新型インフルエンザ等」と「新型インフルエンザ等感染症」の違い
   コラム6 過去の新感染症の例
   コラム7 診療継続計画の記載事項について

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