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病院家庭医

新たなSpeciality

1版

北海道勤医協札幌病院 内科・総合診療科 佐藤健太 監修
国際医療福祉大学成田病院 総合診療科 宇井睦人 監修
市立奈良病院 総合診療科 森川 暢 編集
悠翔会在宅クリニック北千住 松本真一 編集

定価

4,290(本体 3,900円 +税10%)


  • B5判  250頁
  • 2020年4月 発行
  • ISBN 978-4-525-20991-9

家庭医療が診療所のものだとだれが決めた?

「家庭医療」というと診療所の医師が行うものと思われがちだが,実は病棟で働くうえでも家庭医療のテクニックを活かせる機会がたくさんある.本書は全国で活躍する気鋭の「病院家庭医」により執筆された,病院における診察やマネジメントの質を向上させる1冊である.実臨床で悩んでいた問題のヒントが言語化されていることに驚くはずだ.

  • 序文
  • 目次
  • 書評 1
  • 書評 2
序文
なぜ今 病院家庭医なのか?

 病院家庭医とは何だろう? 非常に異な言葉に聞こえる.家庭医はわかる.ただし,家庭医は通常診療所で全人的に患者を診るドクターである.では,なぜ病院なのか? 家庭医療のプリンシプル(McWhinney, 1981)は次のようになっている.
(1) 家庭医は人間にかかわる.このかかわりは,健康上の問題の種類によって制限されないし,終点と定義されるものがない.そのかかわりはその人が健康なときから形成されている.
(2) 家庭医は,病気のコンテクストを理解しようとする.多くの病気はコンテクストのなかで診なければ完全には理解することができない.
(3) 家庭医は,患者と出会うすべての機会を予防や健康教育の絶好の機会とする.
(4) 家庭医は,診療対象を「リスクをもった人の集団(population at risk)」として考え,予防医学を実践する.
(5) 家庭医は,自分自身を,健康問題をケアし支援するコミュニティ・ネットワークの一部分とみなす.
(6) 理想的には,家庭医は自分の患者たちが住んでいる同じ地域に住むべきである.完全に効果的であるために,家庭医はなお目の届く近隣にいる必要がある.
(7) 家庭医は,本来の「エコロジスト」であるべきである.家庭医は,患者を患者の家で診る.
家で起こる人生の大きな出来事に患者の家族とともに立ち会うことが,家庭医にその患者と家族についての多くの知識を与える.
(8) 家庭医は,医療の自覚的な面を重要と考える.これは自分自身の感情に気付くことも含まれるので,家庭医療は自己を省察する医療である.
(9) 家庭医は,医療資源のマネジャーである.家庭医の責任は,限られた資源を患者とコミュニティ全体の利益のために管理することである.
 このプリンシプルにも書かれているように家庭医療学は全人的かつ包括的に患者自身を診るためのツールであり,その範囲は必ずしも診療所に限定していない.実際に,日本プライマリ・ケア連合学会が認定する家庭医療専門医の半数は病院で働いていることからもそれが伺える.
 私は総合内科にて医師6年目頃まで急性期の内科管理を中心に診療をしてきた.たしかに内科学に関する幅広く深い知識を身に着けることができたが,何か零れ落ちていたものがあると感じていた.内科的な問題を解決しても何かが足りないという思いをもっていた.とくに複雑なプロブレムをもった高齢者はそうであったが,それが何かがわからなかった.転機は,日本プライマリ・ケア連合学会の若手医師部会(現在は専門医部会若手医師部門)で家庭医の先生方と一緒に仕事をさせていただく機会に恵まれたことだった.そこで家庭医療学に出会い,零れ落ちていたものの正体について得心することができた.そして同期の松本真一先生と同じ病院で働くにつれて,彼が病院でも家庭医療学のフレームワークを用いて複雑な問題を鮮やかに整理する姿を目の当たりにして確信した.自分に足りなかったものは家庭医療学であったのだと.
 心不全を診療するにあたり基礎となる理論が必須であることはいうまでもない.同様に複雑系もまた,基礎となる理論が必要ではないだろうか.そこから家庭医療学を自分なりに勉強してみようと思い立った.しかし家庭医療学のテキストは診療所や在宅での実践に重きが置かれていた.とくに自分の主な診療場所であった病院での家庭医療学の実践について書かれた書籍はほとんどなかった.その思いから,南山堂の雑誌「治療」2016年10月号の特集で「病院×家庭医療」を編集させていただいた.私自身,編集を務めるには若かったが,それも病院での家庭医療の実践について知りたい一心であったからだったように思う.特集の編集を通じて,病院での家庭医療学の実践についてさらに理解できるようになっていった.また,家庭医療専門医をもちながら総合内科で病院で働くロールモデルとも出会うことができた.本書の監修をしていただいている,佐藤健太先生,宇井睦人先生をはじめ,今回の執筆者の皆さまがまさにそうである.そのような先生方が病院で家庭医療学を実践している姿をみるにつれ,病院での家庭医療学の実践が有用であると確信をもつようになった.
 また時代も病院家庭医を求めている.未曽有の高齢化社会を迎え,さらに国は地域包括ケアシステムの構築を目指している.日本の病院はおよそ70%が200床未満の小規模病院であるという特徴がある.これらの背景を考えると,小規模病院の医師は地域包括ケアの要として,院内の多職種との連携のみならず,院外のケアマネジャーや訪問看護師などの多種多様なキーパーソンとの水平連携を行う必要がある.さらに在宅診療所のバックベッドとしての役割や,大規模病院の急性期治療を終えた後にいったん受け入れるといった垂直連携も必要である.これらの連携を行うには生物学的なマネジメントだけでは難しく,包括的・俯瞰的に診ることができる家庭医療学の視点が不可欠になる.つまり中小規模病院で家庭医療学を実践する病院家庭医こそが,高齢化社会のキーパーソンとなるのだ.新専門医制度における総合診療専門医への期待は大きい.とはいえ,総合診療専門医は育成途中であり,旧制度の日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医もまだ少数である.しかし,高齢化社会への対応と地域包括ケアシステムの構築は急務である.そこに,本書の意義がある.私のように生物学的な問題を中心に学んできた中小規模病院の勤務医は是非,本書を手に取ってほしい.自分自身が実臨床で悩んでいた疑問が見事にフレームワークや理論として言語化されていることに驚かれるだろう.そしてそれらを現場で実践することによりさらに洗練されたものになっていくことを感じると思われる.また大規模病院の医師であっても地域との連携は避けて通れないため,病院勤務医と診療所勤務医が共通の理論基盤をもつことが重要になってくる.病院勤務医が家庭医療と聞くと拒否感や違和感を覚える気持ちは私にはとてもよくわかる.しかし家庭医療学の実践とは決して絵空事や遠い世界の話ではない.皆さんが日々悩んでいる臨床の現場で複雑事例に立ち向かうときにこそ,家庭医療学はよき同伴者となってくれるのである.病院家庭医の重要性が認知され広がることこそが,高齢化社会を乗り越えるためのキーポイントであると私は確信している.病院総合診療専門医制度の議論も開始されつつある.病院総合医の技能としては臨床推論が重要視されてきた.もし仮に,臨床推論を何となく勘で適当にやっているといえばどうだろうか.心ある病院総合医は怒るだろう.では,なぜ複雑系のマネジメントを何となく勘で適当にやることに関しては寛容でいられるのだろうか.その答えこそが病院家庭医なのである.本書が多くの方の目に届くことを祈っている.

2020年3月
森川 暢
目次
Ⅰ章 病院医療×家庭医療学
01 日本の中小病院医療
  病院家庭医は日本独自の新たなSpecialityだ
02 コミュニティホスピタル
 病院家庭医が主役のコミュニティホスピタル
03 BPSモデル
 BPSモデルは,病院での家庭医療の実践における根幹となる !
04 患者中心の医療
 入院中だからこそ患者の○○を大切に
05 家族志向のケア
 退院時面談に来る家族の役割は同意書にサインをするだけではない
06 CGA
 高齢者の主病名以外もみていますか? 高齢者の再入院予防していますか?

Ⅱ章 病院管理×家庭医の特性
07 PDSAサイクル
 やりにくければルールを変えよう
08 経営
 「総合医が来ると赤字になる」なんて言わせない
09 臨床研究
 病院家庭医が発信すべき研究テーマとは
10 EBM
 診療ガイドラインを鵜呑みにしない一歩進んだエビデンスの活用
11 医学教育
 家庭医療教育のセンターはコミュニティホスピタルこそ最適だ

Ⅲ章 common disease診療に家庭医療の+α
12 リハビリテーション
 「あとはリハだけ」は芸がない,リハはあなたと療法士との協働作業
13 感染管理
 病原体の制圧ではなく,家族や同僚,地域も守るという視点で
14 サルコペニア
 ただ栄養を入れればいいってもんじゃない
15 高齢者肺炎
 誤嚥性肺炎の専門家は誰なのか?
16 ポリファーマシー
 薬剤師任せではない,おくすりの見直し
17 マルチモビディティ
 多併存症患者の診療は,各科専門医チームと家庭医どちらがよいのか
18 認知症
 コリンエステラーゼ阻害薬だけに頼らない認知症診療
19 せん妄
 せん妄にセレネース それで終わり?
20 アルコール
 アルコール依存症の主治医,自信をもってできますか?
21 高齢者うつ
 意欲のない高齢者にできることは?

Ⅳ章 病院におけるケアと支援
22 values based practice
 自分の価値観を押し付けていませんか?
23 ACP
 緊急入院するまで話を先延ばしにしていませんか?
24 bad news tellingのスキル
 病院だからって,言い方ってもんがあるでしょ
25 緩和ケア
 緩和ケア医じゃないし終末期のトータルマネジメントなんてできません,とは言わせない!
26 意思決定支援
 意思決定は誰のもの?
27 臨床倫理4分割カンファレンス
 大事な決定を医師の独りよがりでしないために
28 周辺化された人々へのケア
 “困った患者”?? 本当に困っているのは誰だ?

Ⅴ章 病院を起点とした地域医療
29 病院と地域をつなぐ退院支援
 退院支援をソーシャルワーカーに丸投げしていませんか?
30 訪問診療
 病院で行う訪問診療はこんなに凄い
31 主治医意見書の書き方
 主治医意見書をマンネリで書いていませんか?
32 病院で実践する訪問看護指示書
 訪問看護師の気持ちになってみる!
33 地域包括ケア病棟
 病院家庭医と地域包括ケア病棟はベストマッチだ!
書評 1
日本を代表する病院家庭医が説明する,時代のニーズに応える新たな専門医集団

徳田 安春 先生(群星沖縄臨床研修センター)

 家庭医療のプリンシプルとは何か.全人医療,病気のコンテクストの理解,予防医療と健康教育,集団的予防医学,コミュニティへの参加,エコロジー的発想,省察的医療,医療資源のマネジメントだ.これらのプリンシプルを眺めてみると,病院の勤務医こそこれを実行して病院に入院する患者さんに向き合うことが今こそ求められていることがわかる.
 本書は家庭医療のプリンシプルを実践するための具体的なガイドブックである.豪華な著者陣は,日本代表する病院家庭医の若手指導医軍団である.欧米の家庭医療はオフィスや在宅医療をセッティングとする.しかし,日本の医療構造は欧米とは異なる.全国各地の多数の中小病院において地域医療を支えている医師たちが,家庭医療のプリンシプルを実践する集団へと成長するのは時代の求めに応じた進化と呼んでよい.
 それではオフィスベースの家庭医療と病院家庭医療の決定的な違いは何か.プリンシプルは同じだが病院医師独特の役割を担うことが必要になる.本書はその役割について詳細に指南している.病院管理,病院経営,臨床研究,EBM,医学教育,リハビリテーション,感染管理,高齢者肺炎,ポリファーマシー,マルチモビディティ,ACP,緩和ケア,臨床倫理,退院支援,地域包括ケア病棟での実践などだ.
 アメリカではホスピタリストが現在最も急速に拡大しているスペシャルティである.この専門医集団は1996年に出現,かれこれもう四半世紀が過ぎた.最近では,地域の家庭医との連携を重視した役割を取り入れたホスピタリストのモデルが全米各地に登場している.今,日本版ホスピタリストの必要性が叫ばれるなかで,この病院家庭医という専門医がその主要なモデルの一つとして今後の日本で拡大していく,と予想するのは評者だけではあるまい.
書評 2
藤沼 康樹 先生(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)

 家庭医療学(Family Medicine)は,主として欧米の文脈において質の高い一般開業医の診療のプロセスと構造を明らかにすることから始まりました.それにより,質の保証された若いGeneral Practitioner(後に家庭医とよばれるようになる)を養成することができるようになり,プライマリ・ケアの質が向上し,我流ではない生涯教育が可能になると考えられていたのです.
 私自身は,家庭医療学の起源にあたる研究で明らかになったさまざまな所見の中で,最も重要なものは,「質の高い家庭医は患者の疾患の診断治療と,患者の『病い体験』をほぼ同等に扱っている」ということだったと考えています.それは,疾患の背景因子として心理社会的な側面に気を配るというレベルではなく,生物心理社会的な各側面に同等の価値を付与していたということを意味します.
 さて,日本における受療行動の調査で明らかになったことは,心身の健康問題が生じたときにまず相談する場所として選ばれる医療機関としては,診療所が多いのですが,病院の外来もそれなりに多いということです.つまり日本の病院の外来には家庭医療の機能が本来は必要とされているのです.さらに重要な側面として,超高齢社会にある日本の地域包括ケアにおける垂直統合が有効になるためには,家庭医療学を基盤とした総合診療病棟が地域に必要であるということです.なぜなら,垂直統合を担える病院病棟の機能としては,以下の他科にない独自の機能が必要だからです.
●複雑性が高く比較的重症な多疾患併存患者(Complex Multimorbidity)の入院機能
●入退院を繰り返す,慢性心不全,慢性腎臓病,慢性呼吸不全等下降期慢性疾患の短期入院機能
●進行したFrailな患者(Multiple Functional Decline)の身体疾患急性増悪期のコントロールとマネジメント機能
●心理社会経済的問題によるCrisisサイクル(Complex/Chaos Cases)を一時的にリセットするための入院機能
 若い家庭医と総合診療医たちにより作られたこの「病院家庭医」という本には今こそ求められている病院の医療を行うための具体的に必要な知識・技術・態度・価値観が力強く素描されています.地域包括ケアの時代における病院医療に関心のある全ての医療者に一読を薦めます.
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