2010年 1版
定価:3,360円(本体3,200円+税5%)
認知症は在宅医療のcommon diseaseであり,高齢化が進む昨今,ますます在宅での対応が必要になる.本書では,鑑別診断や薬物および非薬物療法,社会資源など,在宅における認知症診療に必要な知識を網羅的に示した.各方面のエキスパートの解説により,わかりやすさを追求した,在宅医療を行う医師・これから行おうとする医師必読の一冊.
医師としてのスタートを整形外科で始めた私が,認知症の方の診察や治療にかかわるようになったのは在宅医療を通じてである.1980年代の大学時代は,精神科での認知症に関する講義はなく,疾患に対する知識が全くなかった.そのために,初めのうちはどうして認知症の人は異常と思える行動をするのかがまったく分からずに,戸惑いの連続であった.
最初に認知症に関する講義を聞いたのは,本書の筆者の一人である高橋正雄先生からである.講義を聞いた当時の感動は今でも覚えているが,まさに目からウロコの衝撃の内容であった.その後は,実際の経験と本書にも出てくるさまざまな先生方の講演や著書を読みながら知識を深めていった.
在宅医療を行っていくうえで,認知症は避けて通ることのできない疾患の一つである.高齢になるほど認知症の罹患率は上がり,高齢社会となったわが国では現在200万人以上の患者がいて,その数も増えている.すなわち,さまざまな慢性疾患により在宅医療をしている高齢者の方に,認知症を合併する確率は高いのである.さらに,認知症の方は診察室では自分の症状を隠す特性があり,認知症は生活の場で診察を進めるのが望ましい疾患でもある.それらの点からも在宅医療を行う医師は,認知症に対する全般的な知識を持っておく必要があろう.
本書の執筆陣は,教育病院で専門医療を行う医師や認知症の在宅医療を行う医師だけでなく,家族の立場や,法律家,行政の方,各種療法の専門家など多種多彩な方々である.認知症の病気そのものの知識も必要であるが,認知症の方をとりまく社会資源や介護保険の知識,各種療法の知識なども地域の中で認知症の方を支えるためには必要であり,それらの内容も盛り込んである.在宅現場で疑問が生じたときなどに必要な箇所を読んでもらえば,解答が出るように書かれている.
本書を活用していただき,少しでも在宅医や訪問看護師の皆さんのお役に立つことができれば本望である.
I 認知症の診断 〜在宅の現場でどのようなときに疑うのか〜
1 アルツハイマー病と血管性認知症の診断
A 認知症を呈する疾患
B 認知症を疑う症状・どのようなときに認知症を疑うか
a. 記憶障害
b. 見当識障害
c. 実行(遂行)機能の障害
d. 妄想
e. 不眠
f. アルツハイマー病にみられやすい症状
C どのような検査を行うべきか
D 専門医への紹介
2 レビー小体型認知症の臨床像と診断
A レビー小体型認知症とはどのような病気か
B 本症を鑑別しなければならない3つの理由
a. 中心症状
b. 3つの中核症状
c. 3つの示唆的特徴
d. 支持的特徴
C 診断の要点
a. 問診のポイント
b. 診察のポイント
c. 検査のポイント
D 画像診断
a. MRI
b. 脳血流SPECT
c. MIBG心筋シンチ
E 塩酸ドネペジルによる治療
Column レビー小体型認知症の介護上の注意点
3 前頭側頭型認知症の臨床像と診断
A 臨床症状・診断基準
B 画像診断
C 治療・介護
4 軽度認知障害(MCI)の診断と予後
A 軽度認知障害の概念
B 軽度認知障害の疫学
a. 有病率
b. 発症率
c. リバート率
d. コンバート率
C 軽度認知障害の診断
a. 軽度認知障害の診断方法
b. 軽度認知障害の補助的診断法
c. 軽度認知障害の予後
D 治療
a. 身体疾患への注目
b. 食品
c. 一般薬
d. アルツハイマー病治療薬
5 認知症とうつ病の鑑別診断
A 老年期うつ病の臨床的特徴
a. 心気傾向
b. 不安・焦燥
c. せん妄
d. 妄想
e. 仮性認知症
B 認知症と老年期うつ病の鑑別
C 認知症とうつ病との関連
a. 認知症の危険因子としてのうつ病
b. 認知症の危険因子としての仮性認知症
D 専門医との連携
6 認知症と老年精神病の区別
A 多彩な老年期の幻覚妄想状態
B 老年精神病とは
C 老年期特有の幻覚妄想状態
a. 物盗られ妄想
b. 嫉妬妄想
c. 家族否認や人物誤認など
d. 共同体被害妄想
e. 皮膚寄生虫妄想・慢性体感幻覚症など
f. 幻の同居人・接触欠損妄想
g. コタール症候群
7 認知症の補助診断
A 診断過程
B 神経心理検査
C 画像診断
D 血液検査
II 認知症の治療と予防
8 認知症の方の在宅医療の留意点
A 認知症の方の在宅医療のとらえ方
B 専門医療への受診の工夫
C 認知症に対する理解
a. 第1法則:記憶障害に関する法則
b. 第2法則:症状の出現強度に関する法則
c. 第3法則:自己有利の法則
d. 第4法則:まだら症状の法則
e. 第5法則:感情残像の法則
f. 第6法則:こだわりの法則
g. 第7法則:作用・反作用の法則
h. 第8法則:症状の了解可能性に関する法則
i. 第9法則:衰弱の進行に関する法則
j. 介護に関する原則
D 介護者の心理的なハードルとそれに対する援助
E 一人暮らしの認知症の方の地域ケア
F 増えている「認認介護」
G 認知症のターミナルケアについて
9 認知症の薬物療法
A 認知症症状の分類
B 意識障害
C 標的症状
D 抑制系薬剤を介護者が調整する
E 抗うつ薬の扱い
F アルツハイマー病をみつける
G レビー小体型認知症をみつける
H ピック病
a. 前頭側頭型認知症 陽性タイプ
b. 前頭側頭型認知症 陰性タイプ
I 石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病
J クロイツフェルト・ヤコブ病
K 「血管因子」の制御
L 適応症と塩酸ドネペジル用量の問題点
10 認知症のBPSDへの対応
A 認知症とBPSDに関する基礎知識
a. 中核症状とBPSDとの区別
b. BPSDへの医療介入を行ううえでの視点
c. 認知症に対する医療,介護介入における新たな視点の導入
B BPSD増悪に伏在するせん妄
C BPSDに対する薬ギャップの現状
D BPSDへの薬物療法の前にすべきこと
a. 認知症高齢者の服薬行動の特徴
b. 全身状態の精査ならびにすべての薬剤のチェック
c. 見落とされやすい認知症
d. 「疾患情報」と「生活情報」
e. 認知症とBPSDのアセスメント
f. 薬剤モニタリング体制の構築
E BPSDへの薬物療法の各論
a. 睡眠薬に対する一般的注意点
b. 抗精神病薬に対する一般的注意点
c. 抗パーキンソン薬に対する一般的注意点
d. 抗てんかん薬に対する一般的注意点
11 認知症の方の緩和ケア
A 認知症の重度,末期の定義
B 意思決定の支援
C 認知症患者の末期の苦痛と緩和ケア
a. 認知症末期の状態像
b. 認知症重度,末期の苦痛
c. 苦痛の評価
d. 原因の評価
e. 苦痛緩和の方法
f. グリーフケア
D 早期からの緩和ケア
a. 言語化されたスピリチュアル・ペイン
b. スピリチュアル・ペインとしてのBPSD
E 認知症の緩和ケアと長期ケア
12 認知症の非薬物療法
A 認知症の回想法の実際
a. 高齢者と想い出
b. 回想法とは
c. 回想法の実際
d. 在宅医療における回想法の応用
e. 回想法における認知症患者との会話の留意点
B 認知症の方のリハビリテーション
a. 認知症のリハビリテーション
b. もの忘れ防止教室での認知リハビリテーション
c. 認知症の総合ケア
C 音楽療法
a. 音楽と音楽療法
b. 音楽療法の効用と対象者
c. 評価が大切
d. 認知症に対する音楽療法
e. セッションの実際とそのコツ
D 玩具療法
a. 玩具療法の検証
b. 認知症高齢者に対する玩具療法の効果
c. 研究・分析の結果
d. 玩具療法に使用する玩具の説明
E 芸術療法
a. 芸術療法とは
b. 芸術療法の具体的な方法
13 認知症の予防
A 認知症の予防とは
B アルツハイマー病の予防に有効な薬剤
a. 非ステロイド系抗炎症薬
b. コレステロールとスタチン
c. 降圧薬
d. 開発中のβタンパク蓄積防止薬剤やワクチン
e. タウタンパクの重合阻害薬
C 認知症予防のライフスタイル
a. 運動
b. 食事
III 認知症の方をとりまく環境と社会資源利用
14 在宅医療におけるかかりつけ医の心得
A かかりつけ医の重要性
B 初回診察の仕方
a. 家族だけの相談
b. 本人も受診した場合
C 認知症の症状・問題行動への対応
D 介護家族への対応
15 認知症高齢者グループホームへの訪問診療の留意点
A グループホームについて
a. グループホームとは
b. グループホームの変わりつつある現状と課題
B グループホームへの訪問診療
a. 協力医=かかりつけ医としての訪問診療
b. かかりつけ医としての訪問診療
c. グループホーム訪問診療の留意点
16 認知症患者のデイサービス―「もの忘れカフェ」の試みから考える
A もの忘れクリニックの外来での取り組みについて
a. 外来診療
b. 病名告知
c. デイサービス導入前に行われる外来心理教育
B もの忘れクリニックでの認知症専用デイサービス
a. 認知症専用デイサービスの変遷
b. 認知症専用デイサービスの現在
c. 若年・軽度認知症患者のための自立型デイサービス 「もの忘れカフェ」
d. 中等度認知症患者のための「もの忘れカフェ」の新たな展開
e. 重度化した認知症患者へのケアについて
f. BPSDが目立つようになった認知症患者へのケアについて
17 認知症の方の底力を地域に生かす
A 認知症高齢者の役割づくり
B 具体例
a. 「かまど」でのごはん炊き
b. 家事
c. 生き物の世話
d. 子どもの「しつけ」
e. 青少年の育成と犯罪者の更生
f. パトロール
g.整理・整頓
18 認知症の方のケアプラン
A 認知症の方のケアプラン
B 介護保険サービス利用の基準
C 介護保険以外のサービスの利用
D 支援方法の考え方と活用の考え方
E 訪問医とケアマネジャーとの連携のポイント
19 認知症の方の家族の気持ちとその対応
A 認知症の方を介護する家族の気持ち
a. 母の介護から「家族の会」へ
b. 家族の会の活動
c. 家族の気持ち
B 「介護の達人」から
C 家族たちが望む医師の対応
20 〜まちで,みんなで認知症をつつむ〜大牟田市地域認知症ケアコミュニティ推進事業
A 認知症ケア研究会の発足
B 地域認知症ケアコミュニティ推進事業
a. 認知症コーディネーターの養成
b. 認知症の早期発見・予防のためのもの忘れ相談検診
c. 認知症予防教室「ほのぼの会」
d. 教育現場と一体となった絵本教室
e. ほっと安心(徘徊)ネットワーク
f. その他の取り組み
C 認知症の人を地域ぐるみで支えるビジョン
21 認知症の方の虐待防止と権利擁護
A 高齢者虐待の概念
a. この概念分類は認識ツールである
b. グレーゾーンという認識
B 虐待事例援助の基本的手法
a. 加害者支援
b. 多職種連携による対応の重要性
C 高齢者虐待防止法
a. 高齢者虐待防止法とは
b. 通報義務
D 虐待の背景を洞察する
a. 介護問題の深刻さへの理解
b. 家族の歴史への認識
c. 家族の回復プロセスに注目する
d. 家族らによる金銭の流用
e. 社会的に自立しない子どもによる金銭などの請求行為
f. 第三者による経済的虐待
E 「見守り」と「イベントへの迅速な対応準備」
a. 困難ケースの見守り
b. 分離
F 制度活用
a. 生活保護制度
b. 成年後見制度
c. 長期生活支援資金貸付制度
22 成年後見制度について
A 新しい成年後見制度とは
B 従来の制度の問題点
a. 戸籍記載
b. 鑑定費用と時間
c. 後見人の確保の困難さ
d. 硬直的な二元的制度
e. 本人保護の視点の欠如
C 成年後見制度の役割
a. 財産管理と身上監護
b. 法定後見と任意後見
D 成年後見制度導入の背景
a. 日本社会の高齢化
b. 「措置制度」から「契約」へ
E わが国の成年後見制度
a. 任意後見制度
b. 法定後見制度
c. 身上配慮義務
d. 医療行為の決定・同意
e. 認知症患者と車の運転
F 新しい受け皿
a. リーガルサポート
b. 横浜生活あんしんセンター
G 今後の展望
Column 成年後見制度申立てまでの経緯
23 センター方式を用いた認知症ケア
A センター方式の特徴
a. 「5つの視点」
b. 「私」を主語にする
c. アセスメントの情報源を明確にする
B センター方式シートの全体構成
C 効果を出せたシートの用い方
D 利用方法
24 認知症の方と小規模多機能型居宅介護
A 小規模多機能型居宅介護とは何か
a. 宅老所がモデル
b. 地域で暮らすための切り札
B 小規模多機能型居宅介護の実際
C これからの認知症介護
付録 巻末表
巻末表1. Mini-Mental State Examination(MMSE)
巻末表2. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
巻末表3. Functional Assessment Staging(FAST)
索引