2007年 1版
定価:6,720円(本体6,400円+税5%)
獲得免疫のみならず自然免疫も重要な役割をもつことが認識され,その連携を含め新たな角度から注目が集まっている免疫系について,各分野を代表する研究者が免疫学の基礎と臨床の両面からこれまでの流れと展望を解説をする.免疫系のダイナミズムを活き活きと感じ,新たに解明されてきた分子メカニズムから,臨床応用の発展へつながる研究の新たなヒントだけでなく,免疫学の新たな視点を得られる待望の一冊.
「ローマは一日にして成らず」という有名な格言がある.大きな目標は容易には成就せず,地道な努力を惜しまず多くの困難を乗り越える中で,ようやく達成していくものであることを意味することはいうまでもないが,学問の進展もまた然りである.そして,日本の免疫学は過去数十年にわたる多くの先達によって担われ,醸成されてきた“日本が世界に誇る文化”のひとつである,といっても過言ではない.実際,日本の免疫学のレベルはそれほど高く,関連論文の質・量の高さのみならず,最近では米国などの海外の研究者が日本で催される免疫学会の学術集会などに招待されることを自身のprestigeを高めるものとして誇りにしていることなどからも伺える. このような学術・文化の醸成には,華々しい研究成果の論文発表などに比較して,それらの背景に,ともすれば目に見えにくい要素が内在することを忘れてはならないだろう.特筆すべきは,古い体制を早期より打破し,“コンセプトとその分子レベルでの検証”を起点において,老若男女を問わず常に忌憚ない意見交換や積極的な情報交換などを活発に奨励してきた日本免疫学会の取組み,そして,国際免疫学連合への積極的参加と協調,日本発の国際免疫学雑誌の発刊,さらに若手研究者奨励の教育・啓発のための企画などの諸活動が挙げられるであろう.日本の免疫学研究を担ってこられた先達によって築かれてきた,これらの素晴らしい伝統を抜きに今日は語れないとともに,我々には,それをさらに発展させていく責務がある.素晴らしい研究,素晴らしい論文は簡単には“成らない”のである.
今回,免疫学の研究成果をまとめることとしたのは,このような背景を踏まえ,現在,免疫学でホットなトピックスについて,世界の第一線を牽引するわが国の免疫学者に,基礎知識から最新の知見までわかりやすく解説してもらうことにより,本書を手にした読者が,常に研究が進展する免疫系のダイナミクスを活き活きと感じ,新たに解明されてきた病態の背景となる分子メカニズムから,臨床応用の発展へつながるヒントも得られるのではないかと考えたからである.すなわち,自然免疫,適応免疫それぞれの研究について,そして免疫病態の解明につながる研究について,国際的に最前線で活躍されているわが国が誇る研究者の方々に,新しい洞察,コンセプトの変遷なども含め,執筆をお願いした.
まず“第_T部 自然免疫からの展望”では,最近の進展が著しい自然免疫研究について病原体由来分子のパターン認識とそれによって惹起される免疫応答系について,分子メカニズムから免疫系進化の考察まで含め,当該研究分野を切り開いてきた研究者の方々に執筆いただいた.そして,自然免疫を担うNK細胞群,NKT細胞に関して,適応免疫との連携をも踏まえた最先端の知見を提供していただいた.
“第_U部 適応免疫からの展望”では,リンパ球と抗原提示細胞の機能とその調節機構を主体とし,歴史は古いが新しく進展し続けている分野(リンパ球活性化,免疫記憶,中枢性・末梢性免疫寛容,Th1/Th2応答,抗原提示樹状細胞),さらに最近新たに注目を浴びている分野(Th17応答,非古典的MHC,粘膜免疫)についてそれぞれ国際的に第一線で活躍する研究者の方々に執筆いただくことができた.
そして,“第_V部 免疫病態の解明に向けて”では,明日の治療原理の開発・確立を目指した研究成果について,その現状と展望をそれぞれの視点から最先端の研究を続けている方々に述べていただいた.免疫応答の基礎的理解の上に立って,病態をより正確に理解し,合理的で副作用の少ない新しい治療法を開発していくことが21世紀の免疫学には求められている.そして,この方向性に関しては,わが国の免疫学研究はもっともっと飛躍しなければならない時期にきていることは間違いない.
本書を通して,免疫学が常に,新しい学問領域として変貌を遂げようとしていることを実感してもらえることを願うとともに,このような学術的研究の進展こそが免疫病態の理解と疾患克服に向けて,さらに前進を続けるために必須であり,やがては社会の付託にも応える重要な基盤を形成していることを認識していただければ幸いである.そして,日本が世界に誇る執筆者の方々の力作に新しい刺激を受けながら,冒頭の格言を噛みしめ,心に新たに刻んでいただければ幸甚である.最後に,これからの世代を担う若手研究者が,免疫学を通して学術・文化の創造・醸成の大切さをより深く認識し,本分野をさらに発展していく契機となることを祈念している.
Toll-like receptor研究の展開 ―小腸におけるTLR5の新たな役割― 植松 智 審良静男
1-1 はじめに
1-2 自然免疫
1-3 TLR
1-4 粘膜固有層の樹状細胞
1-5 粘膜固有層のCD11c+ 細胞におけるTLR5の機能
1-6 粘膜固有層のCD11c+ 細胞におけるTLRのユニークな発現パターン
1-7 TLR5とS. typhimurium感染
1-8 今後の展望――‘From Bench To Clinic’
ウイルス感染における細胞内センシング機構 尾野本浩司 米山光俊 藤田尚志
2-1 はじめに
2-2 自然免疫を発動させる受容体
2-3 ウイルス由来RNAを認識する受容体RIG-_T/MDA5
2-4 細胞質内のDNA受容体
2-5 まとめ
自然免疫系の進化とその意義 石井秋宏 瀬谷 司
3-1 はじめに
3-2 自然免疫における微生物認識機構の進化
3-3 おわりに
免疫系細胞における遺伝子発現の時空間制御 本田賢也
4-1 はじめに
4-2 細胞内小区画と免疫シグナル制御
4-3 細胞内感染病原体と免疫応答
自然免疫と適応免疫をつなぐNK細胞群 小笠原康悦
5-1 NK細胞とは
5-2 NK受容体と標的細胞認識機構
5-3 NK細胞,NK受容体の機能と役割
5-4 研究の展望
NKT細胞の多面的免疫機能調節:NKT細胞によるTh2反応の制御と癌の免疫細胞療法への応用 岩村千秋 本橋新一郎 中山俊憲
6-1 はじめに
6-2 Vα14 NKT細胞とは
6-3 NKT細胞によるアレルギー制御
6-4 NKT細胞による癌免疫療法
6-5 おわりに
T細胞活性化とその異常の分子生物学 鈴木信孝 斉藤 隆
7-1 はじめに
7-2 TCRを介する活性化シグナルとその異常による免疫疾患
7-3 T細胞活性化制御補助シグナルおよびその異常による免疫疾患
7-4 おわりに
抗原受容体シグナル伝達とB細胞分化・活性化 北村大介
8-1 はじめに
8-2 B細胞分化とクローン選択
8-3 BCRシグナル伝達の分子機構
8-4 おわりに
Th1/Th2応答とクロマチン制御 久保允人
9-1 Th1/Th2応答
9-2 クロマチン制御とエピジェネティクス
9-3 Th2サイトカイン遺伝子座におけるクロマチン制御
9-4 Th1サイトカイン遺伝子座におけるクロマチン制御
9-5 染色体内協調作用と染色体間協調作用によるTh1・Th2遺伝子発現の細胞選択制御
新しいヘルパーT細胞サブセット“Th17細胞” 渋谷和子
10-1 新しいヘルパーT細胞サブセットTh17細胞の発見
10-2 Th17細胞の分化機構
10-3 Th17細胞と疾患
10-4 おわりに
記憶CD8 T細胞の恒常性と活性化制御 植田尚子 村上正晃
11-1 はじめに
11-2 記憶T細胞の細胞表現型と機能
11-3 記憶T細胞の維持機構
11-4 記憶T細胞とホメオスタティック増殖・サイトカイン
11-5 記憶CD8 T細胞の生体内での維持とサイトカインとの関係
T細胞応答の抑制性制御 千住 覚 西村泰治
12-1 はじめに
12-2 TGF-βによる免疫抑制
12-3 IL-10による免疫抑制
12-4 B7ファミリーによる免疫抑制
12-5 おわりに
樹状細胞による免疫調節ダイナミズム 樗木俊聡
13-1 樹状細胞(DC)の分布と抗原捕獲
13-2 樹状細胞(DC)の二次リンパ組織への移動と形質変化
13-3 二次リンパ組織におけるDC-T細胞間の時空的相互作用
13-4 抗原の提示と譲渡
13-5 おわりに
CD1:抗原提示の新たなパラダイム 杉田昌彦
14-1 非タンパク質抗原を標的にしたT細胞応答の存在
14-2 グループ1 CD1分子の特質
14-3 グループ1 CD1の細胞内輸送と脂質プロセシング経路
14-4 脂質特異的T細胞応答の特徴と感染防御における役割
14-5 生体防御の新たなパラダイムの確立に向けて
粘膜免疫の分子生物学 國澤 純 清野 宏
15-1 はじめに
15-2 自然免疫としての粘膜免疫
15-3 CMIS(common mucosal immune system)による粘膜系獲得免疫の誘導
15-4 CMIS非依存的免疫誘導経路の発見
15-5 発生学としての粘膜免疫−粘膜免疫関連リンパ組織の構築メカニズム−
15-6 粘膜ワクチン開発への展開
15-7 抑制系免疫としての粘膜免疫と免疫疾患
15-8 おわりに
中枢性免疫寛容の分子理解 高浜洋介
16-1 免疫寛容と自己寛容
16-2 中枢性寛容と負の選択
16-3 負の選択をもたらすシグナル伝達
16-4 負の選択をもたらす自己抗原の提示と胸腺髄質
16-5 負の選択以外の中枢性寛容
16-6 制御性T細胞の生成
16-7 おわりに
制御性T細胞とその病理の分子免疫学 野村尚史 坂口志文
17-1 はじめに
17-2 制御性T細胞の分類
17-3 nTregの胸腺内分化
17-4 末梢リンパ組織でのTregの維持,転換
17-5 Tregの抑制メカニズム
17-6 nTregの異常と自己免疫疾患
17-7 まとめ
自己免疫疾患に対する抗原特異的免疫療法 藤尾圭志 山本一彦
18-1 はじめに
18-2 自己免疫疾患における従来の免疫療法と自己抗原を標的とした免疫療法
18-3 自己免疫疾患における抗原特異的免疫抑制の試み
18-4 自己免疫疾患における自己抗原特異的T細胞
18-5 TCR遺伝子導入による自己免疫疾患の治療
18-6 おわりに
癌免疫療法の新展開 田原秀晃
19-1 はじめに
19-2 癌免疫療法のはじまりと抗体療法
19-3 自然免疫の賦活化とサイトカイン療法
19-4 腫瘍抗原の同定と獲得免疫を利用したワクチン療法の実用化
19-5 癌のもつ免疫回避機構とそれを克服するための対策
19-6 免疫細胞療法,免疫遺伝子治療
19-7 自然免疫の賦活による獲得免疫への橋渡し
19-8 癌免疫療法の確立に向けて
アレルギー性炎症 烏山 一
20-1 はじめに
20-2 サイトカインTSLPの慢性アレルギー炎症病態への関与
20-3 好塩基球が主役を演じる慢性アレルギー炎症の発見
20-4 おわりに
ケモカインシステムと免疫系構築および免疫病態 長澤丘司
21-1 はじめに
21-2 ケモカインとその受容体の同定
21-3 炎症・炎症性疾患とケモカイン
21-4 獲得免疫とケモカイン
21-5 AIDSとケモカイン
21-6 癌のリンパ器官への転移とケモカイン
21-7 ケモカイン制御の臨床応用
21-8 おわりに
Fc受容体と抗体療法 中村 晃 高井俊行
22-1 FcRの構造
22-2 FcRのシグナル伝達
22-3 FcR多型性
22-4 抗体療法とFcR
22-5 おわりに
骨免疫学と疾患 高柳 広
23-1 はじめに
23-2 炎症性骨破壊と破骨細胞
23-3 免疫制御分子による破骨細胞分化シグナルの制御
23-4 骨免疫学的異常と疾患
23-5 骨免疫学の新展開
23-6 おわりに
移植免疫研究の新展開 東 みゆき
24-1 はじめに
24-2 T細胞免疫寛容
24-3 アナージー誘導の治療戦略
24-4 細胞除去による寛容誘導治療戦略
24-5 抑制による免疫寛容誘導治療戦略
24-6 おわりに
ワクチン開発研究の新展開 石井 健 堀井俊宏
25-1 はじめに
25-2 ワクチンの現状と問題点
25-3 標的抗原の探索と疫学
25-4 組換えタンパク質ワクチンと自然免疫アジュバント
25-5 新たなワクチンデザイン
25-6 新しいワクチンの投与方法とデリバリーシステム
25-7 ワクチン開発の戦略
25-8 今後の展望
ゲノム研究と免疫疾患 山田 亮
26-1 ヒトゲノムプロジェクトとその周辺の公共データの現状
26-2 ゲノム学アプローチからみた免疫系・自己免疫疾患の病理 −環境要因との相互作用をする免疫系−
26-3 免疫現象を理解するためのゲノム上に存在する解析対象の拡大
26-4 遺伝子多型による免疫系・自己免疫疾患の病理の解明
26-5 おわりに
和文索引
欧文索引