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カテゴリー: 医学・医療一般

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医の「こころ」を磨く

点から線へ,線から面へ

1版

大分大学 名誉教授 中野重行 著

定価

2,200(本体 2,000円 +税10%)


  • A5判  278頁
  • 2020年3月 発行
  • ISBN 978-4-525-00251-0

医療人としての思考と感性のセンスを磨く

本書では,医師である著者が,臨床医としてだけでなく,医学教育や医薬品開発,CRCの育成など,長年,医療とかかわり,多岐にわたる経験を積んで身に付けた“ものの見方,考え方,価値観”を,さまざまな視点から描いている.医師,薬剤師,CRCなど,医療に携わる人としての思考と感性のセンスを磨くことができる一冊.

  • 序文
  • 目次
序文
 「医療マンダラ 〜思考と感性のセンスを磨く〜」と題する連載を, 2015年に南山堂の『薬局』誌上で開始しました.「マンダラ」とは,もちろん「曼荼羅」(あるいは,曼陀羅)のことです.古代インドに起源をもつ曼荼羅にも,いろいろな種類があるようですが,大日如来をはじめとする諸仏の像を絵画として表現した曼荼羅の図には,なんとなく観る者を引きつける魅力があります.仏の像が観る者の心に安らぎを与えてくれるからなのでしょうか.
 しかし,それだけでもなくて,曼荼羅の図がいわゆるフラクタル図形になっていて,あちらこちらに相同形の図柄が組み合わされていて,この世を象徴しているように思えることも,魅力のひとつになっているように思います.
 なお,平安時代に弘法大師空海は,唐での留学を終えて帰国した際に,密教の経典に基づく曼荼羅(彩色両界曼荼羅)を持ち帰っています.
 私にとって,「医療マンダラ」の連載を開始した2015年は,医学部を卒業して50年という節目を迎える感慨深い年でした.半世紀を超えて医療の世界で生きていると,加齢に伴う体力の変化とは違って,いろいろな経験が心の中に財産として蓄積されてきます.
 若い頃の私は,自分の目指す夢を追って,さらには武者修行の気持ちも重なって,日本文化の特徴とされている縦社会を横に歩いてきました.医学の世界は,特に縦の関係が強いと言われています.その縦社会を,横に,あるいはポジションを上げながら斜めに歩いてきたわけで,その間に貴重な体験を沢山させていただきました.
 私は,医学部卒業後,大学院生・研究生として在籍したか,あるいは奉職した大学は,国内の大学が5つ,米国の大学が1つになります.学部としては,医学部と薬学部を含めて3つあります.
 講座ないし分野としては,内科,心療内科,脳科学(脳代謝と神経化学),薬理学(行動薬理学),臨床薬理学・臨床薬効評価学,医療コミュニケーションといった領域に広がっています.自ら求めて教えを受けた恩師ないし仕えた上司となる教授は,7人になります.7人目の教授は,実は自分自身です.自分の内面と対話しながら,教授職を勤めてきたわけです.
 私の主たる仕事場は,大学という教育・研究機関でした.つまり,一貫して学究生活を続けてきたことになります.しかし,これと並行して,厚生労働省,文部科学省,総務省,学術会議などの各種委員会の委員を務め,製薬企業のアドバイザ−のような役割も果たしてきました.
 診療活動を休止せざるを得なかった時期も一時ありますが,心身医学の専門医・研修指導医でもあったため,心療内科医と産業医としても,診療活動を続けてきました.大分大学医学部附属病院の病院長を務めた期間も,毎週1日の外来診療は休みませんでした.
 したがって,現代社会のストレス病に関する研究と診療に携わりながら,臨床薬理学の教育研究や研究倫理審査委員会・治験審査委員会(IRB)の委員も務めてきたことになります.また,縁あって臨床研究コーディネータ(CRC)の育成と認定制度の立ち上げに関与するという貴重な経験もしました.また,国立大学病院の中で,臨床薬理センター長や病院長といった管理職としての役割も経験しました.
 このような人生の旅路を歩みながら,私が感じたことや考えたことを,徒然に言語化した連載が,間もなく60回を迎えようとしています.連載では,多岐にわたる経験を蓄積してきたひとりの医師の目に映る医療の風景や,人の「いのち」の大切さ,などについて描いてきました.最終的には,曼荼羅の世界観のようなバランスの良い図柄が浮かび上がってくることを願っており,今もいろいろな視点から見た物語を描き続けています.
 曼荼羅の世界観のような図柄ができ上がるまでには,まだ道半ばではありますが,令和元年秋の叙勲 瑞宝中綬章 を受章することになったことを記念して,これまでに連載された記事の中から32回分を選んで,『医の「こころ」を磨く 〜点から線へ,線から面へ〜』と題して,書籍化することになりました.
 関連深い記事の何篇かをまとめて,各章立てを行っていますが,本書の各章の各項目は,元々独立したエッセイとして書いたものです.したがって,気の向いたところのどこから読んでいただいても結構だと思います.
 本書が,皆さまの仕事の質の向上だけでなく,限りある「いのち」の体積を大きくしたり,密度を濃くするために,少しでも役立つことがあれば,と願っています.
 最後になりましたが,編集の職にあっても毎回私の執筆を愛読していただき,ときにはポジティブなフィードバックをしていただいた南山堂『薬局』編集長の根本英一氏と,書籍化に際してご尽力いただいた須田幸司氏に,深謝いたします.

令和2年新春
中野重行
目次
1章 治療の本質について考える
1 治療の本質について考える
  〜「疾患」を診るのか,「病人」を診るのか〜
2 治療医学では,理性と感性をバランスよく働かせることが重要!
  〜現代医学で原因を見つけられない耐えがたい慢性疼痛を有する患者の治療を通じて学んだこと〜
3 患者にとって「温かい質の高い医療」を実現するための「チーム医療」の育成を!
  〜縦の糸に,横の糸をわたして,布を織りなすように!〜
4 医療の基本構造から見た理性と感性の役割は?
  〜医療の論理と倫理の誕生〜
5 「よきチームワーク」のイメージとは?
  〜協和音によりハーモニーが生まれると美しい「音楽」になる!同じ方向を向くベクトルからなる合成ベクトルは,より大きなベクトルとなる!〜

2章 薬物治療について考える
1 治療における薬物の役割とは?
  〜あらゆる治療法は,生体の有する「自然治癒力」を前提として成り立っている!〜
2 合理的薬物治療を求めて
  〜育薬における「臨床薬物動態学」をめぐる思い出から〜
3 合理的薬物治療を求めて
  〜創薬における「臨床薬効評価」をめぐる思い出から〜
4 「育薬」という言葉の誕生
  〜創薬と育薬,創薬育薬ボランティア〜
5 薬物Aの改善率が60%とはどういう意味?
  〜患者も医療者も陥りやすい罠〜

3章 インフォームドコンセントと医療教育のあり方について考える
1 医薬品の治験におけるインフォームドコンセントについて考える
  〜臨床試験の中核となるコンセプトが,患者には最もわかりにくい!医療者にとっても説明が難しい!〜
2 医療におけるインフォームドコンセントのあり方
  〜医療教育の実習の中に「治験のインフォームドコンセント」を組み込む試みが誕生した物語〜
3 これからの薬物治療学に関する教育のあり方を考える
  〜学生参画体験型学習としての薬害事件を題材にした教育の試み〜
4 参加体験型学習の重要性と大分における経験から
  〜学生主体の内輪の勉強会「あとほーむアーベント」から,社会に開かれた対話の場「あとほーむカフェ」へ!〜
5 「型」は重要だが,「型どおり」だけではうまくいかない!
  〜「マニュアルどおり」の対応が嫌われる理由(わけ)〜

4章 被験者の視点から見た臨床試験と創薬育薬ボランティアへの感謝の気持ちの表明
1 被験者の視点から見た世界初の華岡青洲による全身麻酔:HistoryからHertoryへ
  〜医は仁ならざるの術,努めて仁をなさんと欲す(大江雲澤)〜
2 医薬品の臨床試験に被験者として参加する患者が受けることのできる恩恵をめぐって
3 臨床試験に被験者として参加した患者に対する感謝の気持ちの表明のしかた
  〜「思いやり」ある行為に対しては,「思いやり」の気持ちを持って社会からお返しを!〜

5章 「 ストレス」と「ストレスマネジメント」について考える
1 「ストレス」をめぐって
  〜程よいストレスは,心身の健康の維持に必要である!「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」は,ストレスにも当てはまる!〜
2 「ストレスマネジメント」をめぐって
  〜「体」「心」「行動」の面からのアプローチ〜
3 「ストレスマネジメント」をめぐって
  〜意味を見いだせるとストレスは軽減する!個人的な体験から〜
4 混乱・不安・苦悩は「整理」という言葉で整理できる!
  〜空間・情報・時間・考え・気持ちへの向き合い方〜

6章 「こころ」のコントロールについて考える
1 ものごとの認識のしかたを,「点」から「線」へ,「線」から「面」へ!
  〜理解を深め,より適切な対処法ができるようにするために!〜
2 中島みゆきの『時代』はなぜ名曲なのか?
  〜悩みや心配事があると,視野狭窄の状態になる!では,視野を広げるためには?〜
3 事実・感情・思考
  〜「事実」と「感情」を分けてとらえる努力は「感性」を磨き,「事実」と「考え」を分けてとらえる努力は「理性」を鍛えるのに役立つ!〜
4 他者の利益を図らずして,自ら栄えることはできない!心からの充実感・満足感を求めて
  〜他者の利益と自分の利益を共存させるバランス感覚〜
5 習慣は第二の天性なり:何事も初めは「小さな一歩」から!
  〜「生活習慣病」の「習慣」とは?そして「習慣」をいかに改善するか?〜

7章 考えるヒント
1 「いのち」の「体積」と「重さ」というイメージ
  〜「いのち」には「長さ」だけでなく,「体積」・「大きさ」と「密度」・「重さ」がある!〜
2 虹は本当に七色に見えますか?“Yellow”と“黄色”は同じですか?
  〜コミュニケーションギャップとその克服のしかたについて考える〜
3 イチゴは果物ですか,野菜ですか?
  〜異文化間や人間同士のよりよきコミュニケーションに向けて〜
4 異文化を理解するために
  〜新しいコンセプトの理解には,文化的背景を知る必要がある!〜
5 現代の日本人の特性はどこから生じたのだろうか?
  〜生命の進化の視座から見ると…… 〜
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